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ドイツでの研究の概要の紹介です。大豆や卵に多く含まれている栄養素で、サプリメントや食品添加物としても流通しているレシチン(ホスファチジルコリン)に潰瘍性大腸炎の改善効果があることがわかったそうです。口から摂取したのでは消化吸収されてしまうので小腸の最後で放出される剤型にして投与したようです。 ●ドイツのハイデルブルグ大学病院第4内科の記事: Lecithin - Schleimhautschutz als therapeutisches und prophylaktisches Prinzip. (ドイツ語) ●Retarded release phosphatidylcholine benefits patients with chronic active ulcerative colitis. W Stremmel, U Merle1, A Zahn, F Autschbach, U Hinz, R Ehehalt. Gut 2005;54:966-971 [無料全文.html] (英語) ▽▽▽▽▽▽ ここから研究の概要の紹介 ▽▽▽▽▽▽ 腸管の粘膜は腸管内腔の細菌や毒素から腸壁の細胞を保護している。ホスファチジルコリンは粘膜ジェルの主要成分の一つである。ホスファチジルコリンは疎水性の膜を形成する。動物実験では、腸炎を起こしている腸壁に投与されたホスファチジルコリンは腸壁を保護することが明らかになっている。潰瘍性大腸炎患者の直腸粘膜のホスファチジルコリンの濃度はクローン病患者や健康者よりも低かった。このようなホスファチジルコリンの減少があるために防御能が落ちて腸炎が発症している可能性もある。直腸に近いほど粘膜中のレシチンの濃度が低くなるので、このことが潰瘍性大腸炎の病変が直腸から始まって上方へと連続的に拡大していくことの理由かもしれない。 我々研究グループはホスファチジルコリン30%含有レシチンを潰瘍性大腸炎患者に投与する無作為割り当て・二重しゃへい・偽薬対照試験を実施した。ホスファチジルコリンは口からそのまま飲んだのではすい臓から分泌されるホスホリパーゼという酵素で分解されて吸収されて大腸に直接届かないので、レシチンをEudragit S 100という特殊な物質でコーティングして小腸の終りのところで放出されるようにした。 参加した患者は、病歴2年以上で、病状が4ヵ月以上活動期にあって、ステロイド剤および/または免疫抑制剤を少なくとも3ヵ月以上使用しておらず、ステロイド剤依存性(=ステロイド剤がどうしても切れない)でない潰瘍性大腸炎患者60人。遅延放出形ホスファチジルコリン含有リン脂質6g/日を3ヵ月間投与した。治験期間中、5ASA剤の使用は許された。症状の程度はCAIスコアで評価した。 緩解した患者は 実薬群では53%(16/30人) 偽薬群では10%(3/30人) 緩解または症状が改善(病状スコアの50%以上の減少)した患者は 実薬群では90%(27/30人) 偽薬群では10%(3/30人) 生検組織検査で改善が認められた患者は 実薬群では52%(13/25人) 偽薬群では13%(3/23人) 患者がつけた日誌によると、効果は2-4週目から見られる傾向があるようであった。 △△△△△△ ここまで研究の概要の紹介 △△△△△△ 治験参加者は、全員、ステロイド剤も免疫抑制剤も使用していない比較的軽症の患者だったようです。偽薬群で緩解に至った率がたった10%だったことから、緩解の定義をかなり厳しく設定していたことがわかります。厳しく判定したのにもかかわらず53%が緩解したと判定されたというのはすごいことかもしれません。 この研究によって「潰瘍性大腸炎はなぜ直腸から炎症が始まって上方へと連続的に拡大していくのか?」という疑問に対して一つの仮説が出てきたことになると思います。「直腸に近いほど大腸粘膜中のホスファチジルコリンの濃度が低くなるので腸管内腔の細菌や毒素に対する防御能が落ちるから」という仮説です。 この治療法は安全性の高い治療法である可能性が大きいです。症状の軽い患者には効果があることがわかったようですが、中等症や重症の患者にも効果があるのかどうかを調べる治験も今後実施されることを希望します。
by pascor
| 2007-10-16 00:11
| 潰瘍性大腸炎
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