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このブログの過去の記事 「慶応大医が潰瘍性大腸炎への「便微生物移植」を実施」[2014-05-11] の追記で皆さんに紹介しました、順天堂大学・消化器内科実施の「潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法」の結果が医学論文雑誌に発表されました。 ◆Changes in Intestinal Microbiota Following Combination Therapy with Fecal Microbial Transplantation and Antibiotics for Ulcerative Colitis. Ishikawa D1, Sasaki T, Osada T, Kuwahara-Arai K, Haga K, Shibuya T, Hiramatsu K, Watanabe S. Inflamm Bowel Dis. 2016 Nov 22. [Epub ahead of print] <論文要約> (英語) 順天堂大学もニュースリリース(=情報発信)として概要を発表しています。 ◆世界初!潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法の有効性を確認~新たな腸内細菌療法の展開へ ~ 順天堂大学 News & Information 2016年 12月1日 .pdfファイル 便微生物移植(Fecal Microbiota Transplant: FMT)とは、健康な人から採取した腸内細菌叢を患者の大腸壁に植え付ける、つまり他人から採取した便を大腸に注入するという治療法です。 古くは、4世紀に成立したとされている中国の古典医学薬学書に、人間の便からの抽出液を服用する治療法の記述があります。 ところで、畜産分野においては、どうやらかなり昔から、ウシ、ヒツジ、家禽などに対して、調子が悪い個体に調子が良い個体の糞を食べさせるという治療法が実施されていたようです。 人間に対する便微生物移植治療法は世界のあちこちで60年くらい前から散発的に実施されていたようですが、2013年にオランダの研究チームが、難治性クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)感染腸炎に対してきちんとした試験形式で実施した治験の結果を発表して、広く医学界に知られるようになりました。 その後、便微生物移植治療法は世界各地で試験され、難治性のクロストリジウム・ディフィシレ感染腸炎に対しては驚くほどの良い治療成績が相次いで報告されましたが、潰瘍性大腸炎に対しては今の所、効果の程はぱっとしないようです。 順天堂大学の石川大医師の研究チームは、まず患者に抗菌剤(抗生物質)によるAFM療法(旧ATM療法)を2週間、前処置として実施し、前処置終了2日後に便移植を実施するという、「抗生剤併用便移植療法」を実施しました。 これは、以前順天堂大学で大草敏史医師(現・東京慈恵会医科大教授)が潰瘍性大腸炎に対する抗菌剤3剤併用療法(ATM療法)の治験を行なっていた事が影響していると思います。 ATM療法は、フソバクテリウム・バリウムという菌を除菌する目的で、抗菌剤アモキシシリン、テトラサイクリン、メトロニダゾールの3剤を服用するという治療法です。「AFM療法」は3剤のうちのテトラサイクリンをホスホマイシンに代えた、ATM療法の改良版です。 今回の石川大医師の研究チームが発信したプレスリリースには、抗菌剤を前処置として実施する意義について、「抗生剤の服用で腸内細菌叢をリセット:抗生剤3種の服用により腸内細菌量を極限まで減らし、乱れた腸内細菌叢をクリアにします。」と書かれています。 今回の治験の対象となった潰瘍性大腸炎患者は、中等症から重症の患者です。便の提供者は配偶者もしくは2親等以内の親族とし、患者に移植する当日に採取し、6時間以内に大腸内視カメラの先端から盲腸付近に散布したようです。 治療の有効率は、移植実施から4週間後の時点で、 ◆抗菌剤服用後に便移植実施 17人中14人(82.4%) ◆抗菌剤服用だけで便移植なし 19人中13人(68.3%) という結果だったそうです。 どちらのグループにおいても有効率が高かったようです。これは、AMF療法単独だけでも有効性が高いという事を示しているのだと思います。 ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ 統計数学的解析では、どうやら両群間に有意な有効率の違いはなかった、つまり、便移植については有効性は認められなかったようです。AMF療法単独の有効率がものすごく高い事が、便移植の有効性を覆い隠してしまった事が原因かも知れません。対照群でこれだけ有効率が高ければ、治験参加者の人数を増やしてもなかなか有意な差は検出されないかも知れません。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ 4週間後の時点では、両グループ間の有効率の差はわずかだったようですが、3か月後、半年後、1年後、2年後における再燃率がどうなるかに注目すべきかも知れません。 今回の研究チームは、治療前、AFM療法終了直後、便移植から4週間後の患者の便を採取して、どのような種類の菌がいるかを分析しています。 プレスリリースのグラフにありますように、治療有効例では、AFM療法で劇的に減少した「バクテロイデス門」に属する細菌が、便移植後に回復していますが、治療無効例では便、移植にもかかわらず回復していません。 研究チームは「ドナー便中のバクテロイデス門が治療効果と病勢に関わっていることを示すものであり」とコメントしています。つまり、潰瘍性大腸炎の発症を阻止する要素がバクテロイデス門に属している何らかの細菌にあるのかも知れないという事だと思います。
by pascor
| 2016-12-04 07:31
| 潰瘍性大腸炎
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