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太り気味の傾向がある提供者から便の提供を受けて、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染腸炎の患者に便微生物移植を実施したところ、ディフィシル腸炎は軽快したが、体重が増えて肥満となってしまった、という出来事を報告した論文が出され、「腸内細菌の中には「デブ菌」が存在する」といった内容の報道記事がネット上に幾つか出たようです。 しかし元となった論文をよく読んでみますと、患者は便移植と同じ時期に胃のヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法を実施した事が書かれています。ピロリ菌の除菌に成功すると慢性胃炎が治癒し、食欲が増進し、肥満になる事がある事が知られています。また、ディフィシル腸炎が治癒した事で、食欲が増進した可能性も考えられます。 動物実験で、肥満傾向の人の便をネズミの腸に注腸したところネズミの体重が増えたが、やせている人の便を注腸したところネズミの体重は増えなかったという結果が得られたという論文が出されていまして、人間に腸内細菌を移植した場合でも同じような事が起こる可能性があるかもしれないと言う事も出来ます。しかし結論はまだすこし先に延ばしたほうがいいのかも知れません。 極端な肥満の人からの便の提供は、念のため避けたほうが良いという意見には賛成します。便の提供者になるには健康である事が条件となりますが、極端な肥満の人はその条件を満たさないと考えたほうが良いと思います。 逆に考えれば、強度な肥満の人に、やせた人の便を注腸してやせ型腸内細菌叢を移植すれば、肥満が解消するという可能性があるかも知れませんから、肥満の分野においても治験が実施される事を望みます。 ところで今回の論文の著者は、クロストリジウム・ディフィシル感染腸炎とヘリコバクター・ピロリ感染胃炎が治癒した事も体重増加の原因となりうるという事も考察にちゃんと書いています。 この報告論文に書かれていた経過を、以下に簡単にまとめてみました。便微生物移植の直前ににたくさんの抗菌剤を使用したようです。 ◆Weight Gain After Fecal Microbiota Transplantation Neha Alang and Colleen R. Kelly Open Forum Infect Dis (Winter 2015) 2 (1): doi: 10.1093/ofid/ofv004 First published online: February 1, 2015 <無料全文.html> ▽▽▽▽▽▽ ここから論文の概要 ▽▽▽▽▽▽ ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ ◇32歳女性。細菌性膣症を訴えて一般開業医へ。原因はクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症であるとその医師は判断し、治療として抗菌剤のメトロニダゾールを処方。しかし効果はあまりみられず、服用後に下痢と腹痛があり、当、ニューポート病院へ。 ◇便からクロストリジウム・ディフィシルの毒素が検出されたので、抗菌剤のバンコマイシンを服用。 ◇検査でヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)菌が検出されたので、3剤併用療法(アモキシシリン、クラリスロマイシン、PPI系胃酸抑制剤)を実施。 ◇なお、腹痛と下痢がひどく、ディフィシル毒素が検出されたので、バンコマイシンの12週間漸減服用療法を実施。 ◇2週間後に再発したので、抗菌剤のリファキシミン(rifaximin)と善玉菌製剤のSaccharomyces boulardiiを服用。 ◇胃カメラ検査で、ピロリ菌が依然感染を続けている事が判明。 ◇下痢と、下痢による精神的ストレスがみられた。 ◇便微生物移植(FMT)実施前の体重は61.7キログラム。BMI(体格指数)は26。 ◇患者は便の提供者として16歳の娘を指定。提供者の体重は63.5キログラム。BMIは26.4。しかしのちに77.1キログラムに増加。 ◇ピロリ菌に対する4剤併用療法(メトロニダゾール、テトラサイクリン、ビスマス製剤、PPI系胃酸抑制剤)を実施。 ◇便微生物移植を大腸内視カメラによる散布で実施。 ◇クロストリジウム・ディフィシル腸炎は改善し、その後は再燃していない。 ◇便微生物移植から16か月後に受診。15.5キログラム太り、医学的アドバイスの元、液体プロテインダイエットと運動プログラムを実施したが、体重は減らなかったと報告。体重は77.1キログラム、BMIは33の肥満。血清コルチゾール値と甲状腺諸値は正常。 ◇便微生物移植から36か月後に受診。体重は80.3キログラム、BMIは34.5。ダイエットと運動を続けたが更に太ってしまったと報告。便秘と消化不良性上腹部愁訴症候群(dyspeptic symptom)を訴えた。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ △△△△△△ ここまで論文の概要 △△△△△△ 【参考情報】 ◆【健百】"便の移植"で肥満、腸内細菌だけなく体形も提供者似に? - 米報告 2015年02月13日 10:30 公開 | あなたの健康百科 ◆あなたの肥満、腸内細菌の不足が原因かも - WSJ 2014 年 11 月 20 日 15:38 JST ◆どうやら「デブ菌」が現実に存在するらしい、肥満者の糞便移植で受けた人が急速に肥満に 動物実験でも腸内細菌の移植で体重増を再現 2015年2月9日 10:00 PM | Medエッジ ◆下痢治療の切り札は「他人の便」? 標準治療上回る効果 - オランダ研究 2013年01月23日 10:18 公開 | あなたの健康百科 ◆「他人の便」で糖尿病やメタボも治る? 米医学誌論評 腸内細菌叢の正常化で 2013年03月14日 18:17 公開 | あなたの健康百科 ◆「便移植」で肥満を抑えることも可能に - 関口一喜 イチ押し週刊誌 2014年9月24日 – 朝日新聞デジタル&M ◆Fecal Microbiota Transplant: Benefits and Risks Ana A. Weil and Elizabeth L. Hohmann Open Forum Infect Dis (Winter 2015) 2 (1): doi: 10.1093/ofid/ofv005 First published online: February 1, 2015 <無料全文.html>
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| 2015-06-27 23:15
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