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以前にこのブログの記事 、『漢方薬の錫類散(Xileisan)の座薬が直腸炎に著効』 [2008-03-16] でお知らせした治験の続報です。 中国の伝統的漢方処方の1つである錫類散(Xi Lei San)を座薬形にして直腸炎型の潰瘍性大腸炎患者6人に試験的に使用してみたところ著しい効果がみられたという兵庫医科大学の研究チームの報告を以前に紹介しましたが、チームはその後更に研究を進め、30人の患者を偽薬を投与するグループと実薬を投与するグループにランダムに分けて、錫類散座薬の効果をより厳密に調べたようです。 2週間の使用で、偽薬群では25.0%しか寛解しなかったのに対して実薬群では81.8%もが寛解し、1年間の寛解維持投与でも有効性が確かめられたという報告を、ヨーロッパで毎年開催されている大規模な消化器病学会であるUEGW(United European Gastroenterology Week)において、2011年10月24日に口頭発表したようです。 今回治療に使用された錫類散の生薬配合レシピにつきましては、概要だけの発表だったので残念ながら書かれていません。中国語の情報をネット上で色々みてみますと、錫類散の配合レシピには幾つかあるようなのですが、いずれにおいても青黛が必ず配合されているようです。量的にもたくさん配合されているようです。 今回の治験の詳しい内容は近いうちに医学論文雑誌に掲載されるのかも知れません。ネット上で発見しましたら、またこのブログで皆さんに紹介したいと思います。 研究チームが発表した治験の結果(概要): CHINESE HERBAL MEDICINE "XILEI SAN" AS REMISSION INDUCTION AND MAINTENANCE THERAPY FOR PATIENTS WITH REFRACTORY ULCERATIVE PROCTITIS: A PROSPECTIVE RANDOMISED DOUBLE BLIND PLACEBO CONTROLLED TRIAL (英語) Type: Free Paper Session Session title: New ulcerative colitis therapies Time: 15.45-17.15 Room: Hall A12/13 OP098 16.57-17.09 Speaker: Ken Fukunaga Co-Authors: Nobuyuki Hida, Yoshio Ohda, Masaki Iimuro, Yoko Yokoyama, Koji Kamikozuru, Naohisa Takeda, Koji Yoshida, Risa Kikuyama, Tomoaki Kono, Mikio Kawai, Kazuko Nagase, Shiro Nakamura, Hiroto Miwa, Takayuki Matsumoto. ▽▽▽▽▽▽ ここから論文の概要 ▽▽▽▽▽▽ ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ プロスペクティブ・無作為化・2群振り分け・2重遮蔽・偽薬対照試験を実施した。治験参加者は5ASA製剤(ペンタサ)、ステロイド剤の注腸、座薬による最適な治療を2週間以上実施しても明らかな効果がみられなかった急性期の潰瘍性直腸炎患者30人。実薬群15人、偽薬群15人に振り分けた。試験にあたって5ASA製剤、ステロイド剤の注腸、座薬は中止し、併用しなかった。 14日間の連続投与で、実薬群の81.8%、偽薬群の25.0%が寛解した。 続いて寛解維持効果を試験した。寛解維持投与を1年間続けて、臨床的寛解率、内視鏡所見、組織検査、全てにおいて実薬群が偽薬群よりも改善の度合いが高かった。 試験期間中に経口のステロイド剤やチオプリン系免疫抑制剤による治療を追加した患者はいなかった。全員において副作用はみられなかった。 草はみ注: ◆プロスペクティブ(prospective)試験 まず治験の全体計画書を作成したうえで、その計画書に沿って、参加者の募集、治療の実施、結果の測定、データの評価などを実行する治験のことです。日本の医学界では「前向き試験」という直訳的訳語が使われたりしていますが、ここは意訳して、「計画書実行型試験(治験)」などとしたほうがいいと思います。ちなみに、プロスペクティブ試験の反対語は「レトロスペクティブ(retrospective)試験(治験)」で、日本では「後ろ向き試験」と直訳されて医学用語として使われていたりします。「後ろ向き」には「世間を裏切った」という語義もありますから、あまりいい訳語とは言えないと思います。こちらも意訳して、「過去記録集計型試験」などのほうがいいかも知れません。 ◆無作為化(random)試験 治験では参加者を治療内容が違う幾つかのグループに振り分けるという事がよく行われますが、その振り分けをサイコロなどを使ってランダム(無作為)に行う試験のことです。ところで、逆に、「どの群に振り分けられたいですか?」と参加者本人に希望を聞いて、その通りに振り分けるという試験はほとんど存在しないのではないかと思います。 ◆2重遮蔽(double blind)試験 例えば服用薬の治験でしたら、与えられたものが実薬なのか、それとも偽薬、つまり薬効成分を含まない形だけのものなのかという情報が、薬を服用する本人にはもちろん、臨床で実際に治療にあたる医療関係者にも知らされないという形式の試験です。全く同じ治療薬でも、患者が「よく効くかも」という希望を持ちながら使用すると、持たずに使用する患者よりも治療成績が良かったりするという、身体に対する心理的影響、いわゆる「偽薬(placebo、プラセボ)効果」をできるだけ排除するために2重遮蔽(しゃへい)という操作が行われます。医療関係者の無意識の微妙な顔色などから治験参加者に実薬であるか偽薬であるかがバレないようにという事で、医療関係者に対しても情報が隠されます。 ◆偽薬対照(placebo controlled)試験 治験参加者を実薬群と偽薬群に振り分けて、両群の最終結果を比較する事で治療の有効性を判断する試験です。 英語のcontrolは一般に「制御」「支配」「管理」などの意味で使われている語ですが、医学においてなぜ「対(つい)にして照らし合わせる」という意味で使われているかといいますと、英語controlは、語源をさかのぼりますと、アングロ仏語、つまりイングランドを征服したノルマン人が使ったフランス語のcontreroller(コントルロレ)から来ていまして、 ◇contre- 「(2つが)対面した」 (英語のcounter-) ◇rolle 「巻物、記録書面」 (英語のroll) の2つから構成されています。2つの対になる(巻物)書面を用意して、両方に記入して、厳重に事物を管理する事を元々指す単語だったからという事のようです。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ △△△△△△ ここまで論文の概要 △△△△△△ 【そのほかの情報源】 ◆UMIN CTR 臨床試験登録情報の閲覧 UMIN試験ID: UMIN000004401 試験名: 新しい漢方薬(シレイサン; Xilei San)坐薬を用いた直腸炎型活動期潰瘍性大腸炎患者に対する治療:単施設無作為化比較二重盲検試験による有効性の検討 (日本語) ◆锡类散 医学百科 (簡体字中国語) ↑錫類散の生薬配合レシピが3種類掲載されています。慢性非特異性潰瘍性結腸炎の治療に使用された例が簡単に紹介されています。保留浣腸、つまり注腸剤として投与され、総有効率は98.3%だったそうです。ベーチェット病の口腔潰瘍と会陰部潰瘍に対して外用で使用したところ完全に癒合した例も簡単に紹介されています。錫類散の存在は清朝中国の18世紀中頃まではさかのぼれるようです。『金匱翼』が初出とされているようです。 ◆金匱翼 巻五 咽喉 喉痺諸法 爛喉痧方 中医世家 (簡体字中国語) ◆金匱翼 巻五 咽喉 喉痺諸法 爛喉痧方 健康楽活網 (繁体字中国語) ↑錫類散の初出とされる部分です。ページの最後に記述があります。『金匱翼』著者の長年の友人である筆職人から、世のために広く公開して欲しいと頼まれた処方であるというエピソードも記されています。
by pascor
| 2012-04-08 01:05
| 新薬開発状況
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