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クローン病患者のT細胞はMAP菌と強く反応する傾向 [2010-02-27 12:41 by pascor] 難病である川崎病の発症に複数種の細菌が関与か [2009-11-17 23:33 by pascor] MAP菌を人間の小腸に接種して炎症や出血が発生 [2009-11-14 13:06 by pascor] 衛生仮説の概説記事 [2009-07-26 15:12 by pascor] DDWでのポスターセッションの動画_喫煙とIBD [2009-06-22 22:15 by pascor] サルモネラやカンピロバクター食中毒歴とIBD発症率 [2009-06-10 22:53 by pascor] 炎症性腸疾患発症に飲料水中の鉄分が関係か_詳細 [2009-03-16 22:30 by pascor] クローン病のほかに1型糖尿病にもMAP菌が関与か [2009-01-24 22:05 by pascor] 家畜の糞に含まれる細菌の死骸がアレルギー発症を抑止か [2008-11-29 23:14 by pascor] 炎症性腸疾患発症に飲料水中の鉄分が関係か [2008-11-20 21:32 by pascor] 子供時代の直接喫煙または間接喫煙はIBD発症に影響 [2008-08-04 22:25 by pascor] カンピロバクターとMAPとOCTNが一部同じ構造 [2008-07-31 22:11 by pascor] 或る腸内細菌が炎症を抑える糖質を分泌している可能性 [2008-06-03 21:52 by pascor] JAM-Aタンパクの不足が炎症性腸疾患発症に関与か [2008-05-19 20:56 by pascor] USAのにきび治療薬でUCを発症したとして11億円賠償 [2008-04-29 01:00 by pascor] CD患者に腹痛を引き起こすアルコール飲料は [2008-04-17 21:19 by pascor] USAのにきび治療薬でCDを発症したとして7.5億円賠償 [2008-02-20 00:26 by pascor] CDの発症に細菌が放出するマンナンが関連か [2008-01-31 23:26 by pascor] ビタミンDが癌や感染症や自己免疫疾患を抑制 [2008-01-25 21:12 by pascor] クローン病の発症原因_CCFA記事概要 [2007-12-14 21:28 by pascor] 母乳が子供を病気から守る可能性 [2007-11-12 23:00 by pascor] CDの抗MAP抗菌剤多剤併用療法が不調に終わる [2007-10-28 18:26 by pascor] クロストリジウム・ディフィシレ感染腸炎を合併したIBD [2007-09-27 23:39 by pascor] UCの発症原因_総論 [2007-09-20 21:42 by pascor] CDの病変小腸のフローラでは未知の大腸菌が優勢 [2007-07-21 18:48 by pascor] IBD発症リスク要因_カナダ・マニトバ大の調査 [2007-05-27 01:54 by pascor] CD発症にMAP菌はやはり関与しているのか [2007-05-12 22:32 by pascor] IBDに合併するサイトメガロウイルス大腸炎_総論 [2007-05-07 21:59 by pascor] サイトメガロウイルス腸炎は軽度だと自然治ゆの可能性 [2007-05-05 21:48 by pascor] 南欧より北欧のほうがUC大腸摘出手術に到る率が高い [2007-04-16 19:18 by pascor] 接着性細胞侵入性細胞内増殖性大腸菌がCD発症に関与か [2007-03-27 22:56 by pascor] NF-kappaBを阻害すると腸炎が起こることを発見 [2007-03-22 19:42 by pascor] UCにおける大腸癌発症のリスク因子と予防因子 [2006-11-21 15:48 by pascor] IBDに合併するサイトメガロウイルス感染症 [2005-12-11 00:12 by pascor] MAP菌が動物に起こすヨーネ病とは?その2 [2005-12-03 10:59 by pascor] MAP菌が動物に起こすヨーネ病とは?その1 [2005-11-25 19:39 by pascor] サルディニアのCD患者の83%からMAP菌検出 [2005-10-19 15:32 by pascor] ドイツのCD患者の52%からMAP菌検出 [2005-10-19 15:28 by pascor] CD発症にMAP菌は関与しているのか [2005-10-19 15:23 by pascor] 赤肉、加工肉、アルコール飲料を多く摂ると再燃? [2005-10-19 11:26 by pascor] CCFA『IBD基礎研究における新たな進展』 [2005-10-15 19:29 by pascor]
活動期クローン病患者のT細胞はMAP菌に対して相対的に強く反応したという実験結果の報告論文を欧米の獣医学者、免疫学者、内科学者からなる研究チームが出したようです。活動期クローン病患者の体内では感染したMAP菌がわるさをしていて、それをT細胞が制圧しようと攻撃モードに入っている可能性がある事をこの実験結果は示しています。 これで、クローン病の発症または増悪にMAP菌が関与している可能性がまた一層強まったかもしれません。 T細胞(Tリンパ球)は免疫担当細胞である白血球の1種で、白血球の中では優れた判断力を持つ事を特徴とする種類です。体内へ侵入した物体が有害なものか無害なものかを精密に判断する能力を持っています。T細胞は、侵入者(エイリアン)が有害であると判断すると、様々な化学物質を分泌したり、ほかの細胞の表面にある信号スイッチを押したりして、免疫機構に攻撃の指令を出します。 MAP菌(Mycobacterium avium paratuberculosis)はクローン病発症の原因菌として20世紀の初めの頃から長年にわたって疑われて来た細菌です。MAP菌はウシなどの家畜に「ヨーネ病」という人間のクローン病とそっくりな病気を起こす事が知られている細菌です。獣医学の分野では「ヨーネ菌」とも呼ばれています。家畜だけでなく霊長類(=サル系哺乳類)にも感染する事が知られています。MAP菌につきましてはこのブログでも何度もとりあげてきました。 (草はみ注: 学術用語的には「MAP」が正しいのですが、わかりやすくするために以下「MAP菌」と表記します。) 【概要を紹介する論文】 Isolation of Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis reactive CD4 T cells from intestinal biopsies of Crohn's disease patients. Olsen I, Tollefsen S, Aagaard C, Reitan LJ, Bannantine JP, Andersen P, Sollid LM, Lundin KE. PLoS One. 2009 May 22;4(5):e5641. [無料全文] (英語) ▽▽▽▽▽▽ ここから論文の概要 ▽▽▽▽▽▽ 抗TNF製剤による治療を受けた事がないクローン病患者11人、潰瘍性大腸炎13人、どちらの病気でもない対照者10人から内視鏡検査の際に生検(=せいけん。生きた組織サンプル)を採取した。クローン病患者11人のうち4人は寛解期で、7人は活動期だった。潰瘍性大腸炎患者13人のうち5人は寛解期で、8人は活動期だった。生検からT細胞を選別して培養した。 活動期クローン病患者のT細胞はMAP菌に対して強い反応性を見せた。一方で、寛解期のクローン病患者、活動期と寛解期の潰瘍性大腸炎患者、対照者のT細胞はMAP菌に対して強い反応性を見せなかった。 ただし、MAP菌に対して全く反応性を示さないのに、大腸菌に対して強い反応を示した活動期クローン病患者のT細胞も存在した。 (草はみ注: これは、クローン病発症にはMAP菌だけでなく大腸菌も関わっている可能性を示すものだと思います。大腸菌が関わっているのではないかという研究結果を以前に 『接着性細胞侵入性細胞内増殖性大腸菌がCD発症に関与か』 でとりあげました。) 我々の知る限り、この研究は、クローン病患者から分離したT細胞のMAP菌への反応性を調べた最初の研究である。 MAP菌は反すう動物にクローン病と似た病気を起こす。クローン病患者からは健康者からよりも高率でMAP菌が検出される。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ 【そのほかの情報源】 ◆Wissenschaftler: Immunzellen von Crohn-Patienten regieren intensiv auf Paratuberkuloseerreger “MAP” (ドイツ語) 31.01.2010 Meldung versenden
川崎病は、1967年に川崎博士が最初に報告した原因不明の小児疾患です。4歳以下の患者がほとんどで、症状としましては、 ◇急な高熱 ◇唇、舌、喉などの粘膜が赤く腫れる ◇両眼の結膜が充血する ◇皮膚に大小さまざまな発疹が出る ◇首のリンパ節が腫れる ◇患者の約1割において心臓の冠動脈に瘤(こぶ)を残す などだそうです。特に最後にあげた後遺症は、患者のその後の生活に影響するようです。 川崎病においては、 ◇自己免疫疾患的側面があると考えられている ◇死亡率はかなり低くて、1パーセント以下とされる ◇親子発症や兄弟姉妹発症が数パーセントみられるが、遺伝性や伝染性があるのかどうかがはっきりしない ◇発症に関連するのではないかという遺伝子ITPKCも最近の研究により指摘されたようだが、リスク倍率が低く、発症に決定的なものではないようである ◇何らかの細菌も発症に関わっているのではないかとかなり昔から言われて来たようだが、はっきりと関与が明らかになった特定菌種はまだないようである ◇感染症的側面がある事が疑われているが、小児と同じく免疫が弱いはずの老齢者においては発症がみられない などが言われているようです。このあたりの諸々の特徴が潰瘍性大腸炎やクローン病の特徴に似ている事が非常に興味深いです。 順天堂大学の研究チームが、病原体の侵入を受けやすい消化管に注目して研究を進め、患者の喉や腸にブドウ球菌などの低病原性細菌が一般の人の10から100倍も存在する事を発見し、更に詳しく調べてみたところ、 ◆ブドウ球菌などのグラム陽性菌が「スーパー抗原」と呼ばれる特殊な抗原を作り出して患者の免疫反応を強く刺激していた。 (草はみ注: 潰瘍性大腸炎においても、スーパー抗原が発症に関わっているのではないかという研究があります。) ◆桿菌などのグラム陰性菌からの刺激を受けて血管内皮細胞が「HSP60」(熱ショックたんぱく60)という特殊なタンパク質を作り出し、このHSP60を患者の免疫機構が攻撃してしまい、血管炎の原因となっていた。 (草はみ注: 潰瘍性大腸炎においても、HSP60が発症に関わっているのではないかという研究があります。) ◆現在知られている治療法では効果がみられなかった患者7人に、比較的どのような種類の細菌に対しても効果がある「ST合剤」という抗菌剤を投与してみたところ、6人で快復がみられた。 (草はみ注: ちなみにこのST合剤の主有効成分は「サルファ剤」に属する薬剤で、潰瘍性大腸炎やクローン病の治療に用いられるサラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリンなど)と同系統の薬剤です。サラゾスルファピリジンはもともと抗菌剤です。) という内容の論文を、このたび、免疫系の有名な医学専門誌に発表したそうです。 潰瘍性大腸炎に対するATM療法(フソバクテリウム・バリウム除菌療法)を開発した大草敏史氏が、以前、医療講演会で、自己免疫疾患ではないかと現在みられている難病のうちのひょっとすると半数近くにおいて、何らかの細菌やウイルスが分泌する何らかの物質が発症に関与しているのではないかと予測を述べられていましたが、川崎病においてはそうである可能性が高くなったようです。潰瘍性大腸炎やクローン病においても果たしてそうなのか、そうではないのか、早く解明されて欲しいと思います。 【情報源】 ◆川崎病 複数細菌原因か 抗菌薬で治療成功…順天堂大チーム : ニュース・研究 : 大学新時代 : 関西発 : YOMIURI ONLINE (2009年11月17日 読売新聞) ◆川崎病:細菌が関与…複数感染で 順天堂大チーム解明 - 毎日jp(毎日新聞 2009年11月17日 20時37分(最終更新 11月17日 21時39分)) ◆Heat shock proteins and superantigenic properties of bacteria from the gastrointestinal tract of patients with Kawasaki disease. Satoru Nagata, Yuichiro Yamashiro, Yoshikazu Ohtsuka, Toshiaki Shimizu, Yumiko Sakurai, Shigeki Misawa, Teruyo Ito. Immunology, Volume 128 Issue 4, Pages 511 - 520 Published Online: 10 Jun 2009 [論文要約] (英語)
MAP菌(Mycobacterium avium paratuberculosis)はクローン病の発症原因として20世紀の初めの頃から長年疑われて来た細菌です。結核菌やらい菌(=ハンセン病の原因菌)などと同じ仲間の菌です。MAP菌はウシなどの家畜に「ヨーネ病」という、人間のクローン病とそっくりな病気を起こす事が知られている細菌です。ヨーネ病を発症した家畜は結局殺処分しなければならないため、ヨーネ病による経済的損害が問題となっているようです。 (草はみ注: 学術用語的には「MAP」が正しいのですが、わかりやすくするために以下「MAP菌」と表記します。) 海外での研究ですが、市販されている牛乳からMAP菌が検出されたという報告があるようです。また、クローン病患者からMAP菌が検出されたという報告が幾つもあるようです。病変部からだけでなく、血液中などからも検出されているようです。また、原因は特定されていませんが、狭い地域でのクローン病の集団発症も報告が幾つかあるようです。 家畜のヨーネ病、MAP菌、人間のクローン病、この3つの関連についての研究をこのブログでもこれまで幾つか紹介して来ました。このブログのタグの「MAP菌」をクリックするとその全てを読むことが出来ます。 獣医学の分野では、家畜の腸にMAP菌を植え付けてみる実験でヨーネ病の発症が確認されているため、MAP菌がヨーネ病の原因菌である事は間違いないのですが、今年2009年、実験動物へ臓器移植した人間の腸管にこのMAP菌を植え付けてみて急性の炎症や出血が観察されたとの論文が出たようです。クローン病発症にMAP菌が関係している可能性がこれでまた更に一つ高くなったと考えることが出来ると思います。その論文の概要を皆さんにお知らせしたいと思います。 【概要を紹介する論文】 Mycobacterium avium paratuberculosis invades human small-intestinal goblet cells and elicits inflammation. Golan L, Livneh-Kol A, Gonen E, Yagel S, Rosenshine I, Shpigel NY. The Journal of Infectious Diseases. Volume 199, Issue 3, Page 350–354, Feb 2009 [論文要約] [無料全文.pdf] ▽▽▽▽▽▽ ここから論文の概要 ▽▽▽▽▽▽ MAP菌(Mycobacterium avium Paratuberculosis)は反すう動物に「ヨーネ病」と呼ばれる胃腸炎を起こす事が知られている細菌である。人間のクローン病とこのヨーネ病が類似している事はずっと以前から指摘されて来ている。事実、MAP菌は人間の母乳、血液、クローン病患者の腸組織などから検出されている。 ヨーネ病においては、MAP菌は幼児期にまず腸に定着し、症状を引き起こさずに何年か過ごし、そして感染した動物の一部だけがこの病気を発症する。人間においても同様であるのではないかと我々は仮説を立て、証明する方法を考えた。クローン病MAP菌原因説に異議を唱える研究者達の主張は、「クローン病発症による腸壁損傷が先で、MAP菌感染は2次的なものである」というものである。MAP菌がクローン病の原因であると確定するためには、人間の子供にMAP菌を植え付けてみるしかないかも知れないが、そのような実験は倫理的に不可能である事は明らかである。 我々は、移植臓器に対して拒絶反応をほとんど起こさないSCIDマウスの背中に人間の胎児から提供された腸管を移植して、3、4ヵ月かけて完全な形に発育させてから、その腸管の内腔に生きたMAP菌を注入して観察してみた。MAP菌は移植大腸には感染しなかったが、移植小腸には感染した。ちなみに、動物のヨーネ病では小腸が病変部位である。興味深い事に、小腸の提供者によって感染しやすい小腸と感染しにくい小腸があることがわかった。また更に、MAP菌は小腸組織を構成する様々な細胞のうちの杯細胞(Goblet cell)にまず感染する事が判った。そしてそれが急性の炎症、組織の損傷、出血を起こしていた。 (草はみ注: 杯細胞(さかずきさいぼう)は粘液を分泌する細胞です。顕微鏡で観察するとゴブレットのような形状である事からこのような名前になったようです。) ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ 今回炎症が発生した組織では、IL6、IL1beta、TNFalphaの値が上昇していた。これらの上昇は、人間におけるクローン病と同様である。しかし、ウシの胎児の腸でもって同様な実験を行なってみると、感染や炎症は起こらなかった。 ちなみに、SCIDマウスに移植した人間の小腸や大腸は、正常に発育、展開して、絨毛、陰窩、粘膜固有層、筋層などをきちんと備えたものになる。 (草はみ注: SCID(スキッド)マウスは実験用の特殊なネズミで、生まれてからあとに機構が完成されていく後天免疫において中心的働きをするTリンパ細胞とBリンパ細胞を生まれつき持っていないネズミです。医学や生物学の世界では実験において非常によく用いられるネズミです。) 今回の実験系においては、マウスの先天(生来)免疫と人間の先天免疫のみが存在し、後天免疫の中心であるTリンパ球やBリンパ球は不在だったわけだが、観察の結果、マウスの血中の単球が移植小腸の粘膜固有層に移入し、そこでMAP菌に対して反応していた。人間のクローン病の発症原因として、後天免疫の腸内細菌に対する反応がおかしくなっているからという仮説があるが、先天免疫のほうが原因である可能性もあるのではないだろうか。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ 胎児期におけるMAP感染はウシやヒツジなどで観察される。MAP菌は人間のクローン病患者の血液から検出されているし、人間の母乳からも検出されている。胎児または新生児の時に、遺伝的にMAP菌に感染しやすい人がMAP菌に感染し、そののち免疫系の働きが乱されて、腸内に共生している腸内細菌に対して免疫が過剰反応して、クローン病が発症するという道筋が考えられる。 今回、9人の提供者から提供された83個の移植片を用いて実験したが、腸の提供者によってMAP菌の感染が起こったり起こらなかったりという事が観察されたので、NOD2、ATG16L、IL23Rなどのクローン病への感受性に関係があるとされる遺伝子について、実験に使用した腸の提供者のDNAを調査している最中である。 △△△△△△ ここまで論文の概要 △△△△△△ 現在の段階で、MAP菌はクローン病の発症原因として「灰色」、つまり、「嫌疑あり」ではないかと思います。実はこの菌に対する除菌療法は簡単ではないようである事が既に判明しているのですが、とにかく、まだ灰色の段階ですが、新規のクローン病発症者をなくす事が出来る可能性がありますので、畜産におけるヨーネ病撲滅を世界的に目指す必要があるのではないかと思います。畜産業界における経済的損失をなくすためにも、どの道、対策をしなければならないと思います。 【そのほかに参考とした情報】 ◆Mykobakterien in Milchprodukten. (ドイツ語) Von Christa Karas
スペインの有力新聞であるEl Paísが自己免疫疾患の原因の1つではないかと議論されている「衛生仮説」について解説記事を載せていましたので、その概要を紹介したいと思います。 Tanta limpieza nos debilita. (スペイン語) 『清潔過ぎると体が弱くなる』 MÓNICA L. FERRADO 03/07/2009 ▽▽▽▽▽▽ ここから記事の概要 ▽▽▽▽▽▽ はいはいをするようになった幼児は身の周りの物を何でも口に入れようとし、彼らの世話をしている大人達は汚い物を口に入れてはダメと教えるが、幼児のその行動は、幼児自らの免疫機構に異物の情報を教え、自らの腸管にとって有益な菌を摂取するために必要な行動であり、多少身の周りの物を口に入れる行為は容認すべきであるとの意見がある。 幼児をあまりにも清潔な環境で育てるとアレルギー、皮膚炎、免疫疾患などにかかり易いとの研究結果が幾つかある。 周囲環境を清潔にする事によって人類は感染症による死亡を減らす事が出来たが、一方で人間にとって有用な細菌も絶滅させてしまった可能性があり、その事が自己免疫疾患の蔓延を招いたという意見の研究者もいる。 その事を証明する事実の1つとして、ベルリンの壁が崩壊する以前は、より裕福で清潔で抗菌剤やワクチンが行き渡っていた西側のほうが東側よりアレルギーや喘息などの自己免疫疾患が多かったという事実がある。 野や山や海で遊ぶことは重要で、自然と触れ合う事で免疫力が正常な形に鍛えられるという意見もある。 人間の体の中には、人間の細胞の約10倍もの数の細菌がすんでいる。なので、それら細菌と免疫との相互作用は無視できない。 アレルギーや喘息などの自己免疫疾患を持っている子供は健康な子供達と違った細菌叢を持っているとの報告がある。 生まれて1週目の時点で便中の細菌叢の細菌種の数が少なかった子供は、数が多かった子供と比べて、生まれてから3年目の時点でアトピー性皮膚炎を発症した確率が高かったという研究報告をスウェーデンのLund大学の研究チームが出している。 またほかに、犬、猫、家畜と一緒に生活している子供はアレルギー性疾患を発症するリスクが低いとの報告がある。 マウスを使った実験をしている科学者は、そうでない人と比べて、アレルギー反応が少ないという報告をイリノイ大学の研究チームが出している。 そのほかにも、田園地域で育った人はげっ歯類に対するアレルギーを起こすリスクが小さいとか、保育園に通っていた子供や大きな家族で育った子供は菌と触れあう機会が多いのでアレルギーのリスクが小さいというような研究結果が発表されている。 腸内細菌に対する異常な免疫反応が原因とされるクローン病などの炎症性腸疾患が先進国で増えつつあるが、これは腸を守る働きの菌や炎症抑制性白血球を増やす働きの菌がいなくなったからだという説がある。 温水蛇口がない家、つまり衛生環境が比較的劣る家で子供時代を過ごした人はクローン病を発症するリスクが小さかったという報告がある。 持っている細菌の多様性が乏しい人は糖尿病、肥満、多発性硬化症などの、ここ数十年で患者数が増えている免疫疾患にかかるリスクが大きいとの報告がある。 一方で、免疫疾患の増加には、細菌の多様性の減少だけではなく、免疫機構を制御するのに必要なビタミンDの欠乏や、エプスタイン・バーウイルスの存在なども関与しているとの意見もある。 すい臓に関する免疫疾患である1型糖尿病のリスクが、或る種の細菌が腸内にいると下がるという研究結果も存在する。 太った人とやせた人では腸内細菌のパターンが違うとの報告が存在し、これは食物からエネルギーを取り出す能力が細菌のパターンによって違うからではないかという説もある。 △△△△△△ ここまで記事の概要 △△△△△△ 豚の寄生虫の卵を製剤化して飲む事で潰瘍性大腸炎やクローン病を寛解に持ち込むという治療法が大学や製薬会社によって研究されているという事を以前このブログで紹介しましたが、この寄生虫治療法に効果があるという事実も衛生仮説を裏付けるものの1つだと思います。 潰瘍性大腸炎やクローン病やそのほかの免疫疾患のこれからの発症者を減らすために、「清潔過ぎず、かつ、不潔過ぎず」という範囲内へうまく日常生活をコントロールする事が先進国において必要となるかもしれません。
投稿動画サイトYouTube上で世界最大の消化器病学会DDWの動画を発見しました。どうやら主催者がアップしたもののようです。研究者がポスターで興味深い研究結果を解説していました。 YouTube上の動画: DDW 2009 Poster Session - Patterns of Smoking and Risk of Hospitalization and Steroid Dependency in Ulcerative Colitis. (英語) 煙草を吸っているまたは吸っていた事がある潰瘍性大腸炎患者は、吸った事がない患者より、診断を受けた時の年齢が高く、入院が少なく、大腸摘出手術を受ける例が少なく、ステロイド剤依存性になる例が少なかったそうです。 しかしです、煙草を吸う本数によって経過がはっきりと違い、煙草を1日に1箱(パック)以上吸う潰瘍性大腸炎患者は、1箱(パック)以下の患者と比べて入院のリスクが1.8倍、大腸摘出手術を受けるリスクが2.4倍だったそうです。 棒グラフから判りますとおり、喫煙の潰瘍性大腸炎に対する利益は、多少はあるものの、本数を吸いすぎる事によって逆に悪影響を及ぼすという驚くべき結果だったようです。 子供時代に受動喫煙にさらされた人とさらされていない人を比較した結果、病状にほとんど違いは無いようで、さらされた人の入院リスクが0.8倍とちょっと低かっただけのようです。 なぜこのような結果になるのかを究明する事によって潰瘍性大腸炎の発症原因の解明につながるかもしれません。更なる研究がなされる事を望みます。 Tags:発症・増悪の原因
サルモネラ菌、またはカンピロバクター菌による食中毒にかかったことがある人は、その後に炎症性腸疾患(クローン病と潰瘍性大腸炎)を発症するリスクが約3倍であるという研究結果をデンマークの研究者が報告したようです。 研究チームはデンマークの国が管理している国民健康情報データベースのデータを解析したそうです。数ある細菌性食中毒のうちからサルモネラ菌食中毒とカンピロバクター菌食中毒だけを選んで解析したそうです。どちらかの食中毒を治療したという記録がある13149人のうち、治療から平均7.5年の間に炎症性腸疾患を発症した人は1.2パーセントだったそうです。一方、どちらの食中毒も治療した記録がない対照者26648人のうち、同じく平均7.5年間に炎症性腸疾患を発症した人は0.5パーセントだったそうです。統計的計算をしてみた結果、リスク倍率は2.9となったそうです。 食中毒菌による食中毒と炎症性腸疾患の発症との関連を調べる事が炎症性腸疾患の発症原因の解明につながるかも知れません。 ところで、サルモネラ菌食中毒経験者とカンピロバクター菌食中毒経験者の間で炎症性腸疾患発症率に違いは見られなかったそうです。また、クローン病と潰瘍性大腸炎のどちらの疾患を発症するリスクが高くなったのかという事についても、差がないという結果が出たそうです。 1)サルモネラ菌食中毒またはカンピロバクター菌食中毒がもたらす何か、例えば免疫異常が炎症性腸疾患の発症に関わっている 2)炎症性腸疾患にかかりやすい人の腸は細菌に対する防御能が弱いので、サルモネラ菌食中毒、またはカンピロバクター菌食中毒にかかりやすい という理由が今回の結果の理由として考えられると思います。 そのほかの菌による食中毒経験者の炎症性腸疾患発症リスクも調べて欲しいと思います。 サルモネラ菌感染症は日本では鶏卵や食肉が感染源と特定される例が多いとされています。症状としましては、嘔吐、激しい腹痛、水のような下痢などがあるそうで、重篤に経過すると高熱、血便、敗血症、意識障害などが起こり、死亡する場合もあるそうです。完治したあとに慢性関節炎が残ってしまう例が数パーセントあるそうです。サルモネラ菌は人間の細胞の中に入り込んで寄生する能力を持っていて、細胞の中でも外でも増殖出来るそうです。 カンピロバクター・ジェジュニ感染症は日本では特に鶏肉が感染源と特定される例が多いとされています。食中毒症状として腹痛や発熱に加えて粘血便を伴うことがあり、潰瘍性大腸炎と誤診されることもあるようです。カンピロバクター・ジェジュニによる食中毒を発症したあとにギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome)という運動神経が冒される自己免疫性の難病(特定疾患)を発症することがあることが知られているようです。カンピロバクター・ジェジュニは様々な自己免疫疾患に深く関わっている可能性がある細菌なのかもしれません。 【情報源】 ◆Food Poisoning May Raise IBD Risk - Study Shows Food-Borne Infections Are Linked to Risk of Inflammatory Bowel Disease. (英語) By Daniel J. DeNoon WebMD Health News Reviewed by Louise Chang, MD June 1, 2009 ◆Increased short and long term risk of inflammatory bowel disease after Salmonella or Campylobacter gastroenteritis. Gradel KO, Nielsen HL, Schønheyder HC, Ejlertsen T, Kristensen B, Nielsen H. Gastroenterology. 2009 Apr 7. [Epub ahead of print] [論文要約] (英語) ◆YouTube上の研究者へのインタビュー動画: IBD and Foodborne Infections. (英語) Tags:発症・増悪の原因
以前『炎症性腸疾患発症に飲料水中の鉄分が関係か』(2008-11-20)で概要を紹介しましたが、ノルウェーにおける統計的研究で、水道水の鉄分の濃度が高い地域ほど潰瘍性大腸炎およびクローン病の発症率が高いという結果が得られたそうです。先日、論文の全文を入手してきましたので、もう少し詳細を皆さんにご紹介したいと思います。 【内容を紹介する論文】 The association between water supply and inflammatory bowel disease based on a 1990-1993 cohort study in southeastern Norway. Aamodt G, Bukholm G, Jahnsen J, Moum B, Vatn MH; IBSEN Study Group. Am J Epidemiol. 2008 Nov 1;168(9):1065-72. Epub 2008 Sep 18. [論文要約] (英語) ノルウェーの研究チームは、ノルウェー東南部の1990年から1993年にかけての炎症性腸疾患発症率データと、1994年の水道水分析データを取り寄せて、両データを統計的計算にかけてみたそうです。対象とした水道水の分析データは、鉄分濃度、アルミニウム濃度、pH(アルカリ-酸性度)、大腸菌数、色調、濁り、だったそうです。計算してみたところ、鉄分濃度と炎症性腸疾患(IBD)の発症に関連があるという結果が出たそうです。水道水1リットルあたりの含有量が0.1mg増えるごとに相対的発症リスクが炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)では21パーセント増、クローン病単体では22パーセント増、潰瘍性大腸炎単体では18パーセント増となっていたそうです。 地域別の水道水中鉄分濃度についてもう少し細かくみてみますと、 最小値 0.00 mg/L 最大値 0.39 mg/L 平均値 0.08 mg/L 中央値 0.04 mg/L であったそうです。 論文の考察では触れられていないのですが、1.21の4乗を計算してみますと、おおよそ2.6となりますから、つまり、最も鉄分濃度が濃い地域は、最も濃度が薄い地域と比べて相対的発症リスクが約2.6倍という事になります。2.6倍というのは大きな数字だと思います。 ノルウェーの人々は普段水道水を飲んでいるのかそれともボトル水を買ってきて飲んでいるのかという事についてですが、論文が引用しているノルウェーの統計によりますと、ボトル水の消費量は1人当たり年間9.5リットルだそうです。ほとんどを水道水から飲んでいるそうです。 ところで、論文の考察によりますと、クローン病の発症とアルミニウム濃度との間に関連があるとの説もあるようです。アルミニウムはありふれた軽金属ですが、毒性がある可能性が指摘されていまして、アルツハイマー病の原因としても疑われているようです。このノルウェーの研究では炎症性腸疾患とは関連なしという結果だったそうです。 皆さん御存知の通り、日本には特定疾患制度というのがありまして、潰瘍性大腸炎もクローン病も患者の地域別分布のデータが有るはずですから、日本でも水道水中鉄分濃度と潰瘍性大腸炎およびクローン病発症率の間に関係があるのかどうかという事を是非研究して欲しいと思います。日本は世界的にみて水道水の質が良いとされていますので、この事が欧米よりも発症率が低い原因の1つである可能性もあります。 Tags:発症・増悪の原因
MAP菌(マイコバクテリウム・アヴィウム・パラチュバキュローシス(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis))はクローン病の発症に関係しているのではないかと疑われ、実際にクローン病患者から高率で検出されたとの研究結果が複数出ている菌なのですが、このMAP菌が1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)の患者からも高率で検出されたと、イタリアのサッサリ大学のLeonardo Sechi教授がマスメディアに発表したようです。1型糖尿病と炎症性腸疾患の両方を発症する患者も少なくないとされていますので、それら疾患の発症に関わる共通因子としてMAP菌感染がこれから注目されるかもしれません。 マイコバクテリウム・パラチュバキュローシスはMAPと略して呼ばれていますが、ウシなどの家畜にヨーネ病という人間のクローン病にそっくりな病変を起こすことが知られている細菌です。家畜だけでなく霊長類(=サル系哺乳類)にも感染する事が知られています。結核菌やハンセン氏病原因菌と近い種だそうです。DNA検出技術の進歩によってクローン病の患者からこの細菌が検出されたという報告が増えつつあります。MAP菌についてはこれまでもこのブログで何度か取り上げてきました。 「1型糖尿病」は「インスリン依存型糖尿病」とも呼ばれています。インスリンは血液中の糖分を細胞に移動させる働きをするホルモンです。インスリンはすい臓の中の組織であるランゲルハンス島のベータ細胞から分泌されます。このベータ細胞が破壊されたためにインスリンが不足するのが1型糖尿病です。2型糖尿病と違って生活習慣は発症にはあまり関わっていないとされ、多くが20歳以前に発症するとされています。インスリンの注射を欠かすと昏睡などの症状を起こす事があるそうで、管理が大変な疾患だそうです。自己免疫疾患的要素が有る疾患とされているようです。 Sechi氏の発表によりますと、1型糖尿病患者からのMAP菌の検出率は、イタリアのサルディニア島と英国では70パーセント、イタリアのロンバルディア地方では40パーセントだったそうです。 ところで、Sechi氏率いる研究チームは2008年の1月に Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis bacteremia in type 1 diabetes mellitus: an infectious trigger? Sechi LA, Paccagnini D, Salza S, Pacifico A, Ahmed N, Zanetti S. Clin Infect Dis. 2008 Jan 1;46(1):148-9. [無料全文.html] (英語) という投書形式の論文を発表していまして、イタリアのサルディニア島において46人の1型糖尿病患者と50人の健康者に試験に参加してもらい、末梢血単核球細胞からDNAを抽出してその中にMAP菌に特有なIS900というDNA配列が存在するかどうかでMAP菌の存在を検証した結果、1型糖尿病患者の63パーセント、健康者の16パーセントから検出されたそうです。統計学的検証で1型糖尿病患者のほうが健康者と比べて有意に感染者が多いと出たそうです。 Sechi氏は、 ◇遺伝的要因を持つ人がMAP菌に感染すると1型糖尿病、クローン病、過敏性腸症候群などを発症するのではないか。 ◇MAP菌は一般的な乳製品から検出されているので、子供の時に粉ミルクまたは母乳を介して感染しているのではないか。 ◇MAP菌は感染した細胞内でゆっくりと増殖するので、感染から発症までに長い期間があるのではないか。 ◇1型糖尿病の発症に関わっている菌がMAP菌のほかにもあるのではないか。 と言っているようです。 PTPN2およびPTPN22という遺伝子の変異がクローン病と1型糖尿病の両方の発症に関わっているかも知れないとの報告が2008年にあったようですし、両疾患に共通な因子を探し出して詳細を研究すれば発症原因の解明につながるかも知れません。 【情報源】 ◆La copertina della salute, news del giorno per il tuo benessere: UN BATTERIO DEL LATTE RESPONSABILE DEL DIABETE DI TIPO 1 (イタリア語) ◆Dottor Sport - Article - Diabete 1, una delle cause nel latte (イタリア語)
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