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以前にこのブログの記事 、『漢方薬の錫類散(Xileisan)の座薬が直腸炎に著効』 [2008-03-16] でお知らせした治験の続報です。 中国の伝統的漢方処方の1つである錫類散(Xi Lei San)を座薬形にして直腸炎型の潰瘍性大腸炎患者6人に試験的に使用してみたところ著しい効果がみられたという兵庫医科大学の研究チームの報告を以前に紹介しましたが、チームはその後更に研究を進め、30人の患者を偽薬を投与するグループと実薬を投与するグループにランダムに分けて、錫類散座薬の効果をより厳密に調べたようです。 2週間の使用で、偽薬群では25.0%しか寛解しなかったのに対して実薬群では81.8%もが寛解し、1年間の寛解維持投与でも有効性が確かめられたという報告を、ヨーロッパで毎年開催されている大規模な消化器病学会であるUEGW(United European Gastroenterology Week)において、2011年10月24日に口頭発表したようです。 今回治療に使用された錫類散の生薬配合レシピにつきましては、概要だけの発表だったので残念ながら書かれていません。中国語の情報をネット上で色々みてみますと、錫類散の配合レシピには幾つかあるようなのですが、いずれにおいても青黛が必ず配合されているようです。量的にもたくさん配合されているようです。 今回の治験の詳しい内容は近いうちに医学論文雑誌に掲載されるのかも知れません。ネット上で発見しましたら、またこのブログで皆さんに紹介したいと思います。 研究チームが発表した治験の結果(概要): CHINESE HERBAL MEDICINE "XILEI SAN" AS REMISSION INDUCTION AND MAINTENANCE THERAPY FOR PATIENTS WITH REFRACTORY ULCERATIVE PROCTITIS: A PROSPECTIVE RANDOMISED DOUBLE BLIND PLACEBO CONTROLLED TRIAL (英語) Type: Free Paper Session Session title: New ulcerative colitis therapies Time: 15.45-17.15 Room: Hall A12/13 OP098 16.57-17.09 Speaker: Ken Fukunaga Co-Authors: Nobuyuki Hida, Yoshio Ohda, Masaki Iimuro, Yoko Yokoyama, Koji Kamikozuru, Naohisa Takeda, Koji Yoshida, Risa Kikuyama, Tomoaki Kono, Mikio Kawai, Kazuko Nagase, Shiro Nakamura, Hiroto Miwa, Takayuki Matsumoto. ▽▽▽▽▽▽ ここから論文の概要 ▽▽▽▽▽▽ ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ プロスペクティブ・無作為化・2群振り分け・2重遮蔽・偽薬対照試験を実施した。治験参加者は5ASA製剤(ペンタサ)、ステロイド剤の注腸、座薬による最適な治療を2週間以上実施しても明らかな効果がみられなかった急性期の潰瘍性直腸炎患者30人。実薬群15人、偽薬群15人に振り分けた。試験にあたって5ASA製剤、ステロイド剤の注腸、座薬は中止し、併用しなかった。 14日間の連続投与で、実薬群の81.8%、偽薬群の25.0%が寛解した。 続いて寛解維持効果を試験した。寛解維持投与を1年間続けて、臨床的寛解率、内視鏡所見、組織検査、全てにおいて実薬群が偽薬群よりも改善の度合いが高かった。 試験期間中に経口のステロイド剤やチオプリン系免疫抑制剤による治療を追加した患者はいなかった。全員において副作用はみられなかった。 草はみ注: ◆プロスペクティブ(prospective)試験 まず治験の全体計画書を作成したうえで、その計画書に沿って、参加者の募集、治療の実施、結果の測定、データの評価などを実行する治験のことです。日本の医学界では「前向き試験」という直訳的訳語が使われたりしていますが、ここは意訳して、「計画書実行型試験(治験)」などとしたほうがいいと思います。ちなみに、プロスペクティブ試験の反対語は「レトロスペクティブ(retrospective)試験(治験)」で、日本では「後ろ向き試験」と直訳されて医学用語として使われていたりします。「後ろ向き」には「世間を裏切った」という語義もありますから、あまりいい訳語とは言えないと思います。こちらも意訳して、「過去記録集計型試験」などのほうがいいかも知れません。 ◆無作為化(random)試験 治験では参加者を治療内容が違う幾つかのグループに振り分けるという事がよく行われますが、その振り分けをサイコロなどを使ってランダム(無作為)に行う試験のことです。ところで、逆に、「どの群に振り分けられたいですか?」と参加者本人に希望を聞いて、その通りに振り分けるという試験はほとんど存在しないのではないかと思います。 ◆2重遮蔽(double blind)試験 例えば服用薬の治験でしたら、与えられたものが実薬なのか、それとも偽薬、つまり薬効成分を含まない形だけのものなのかという情報が、薬を服用する本人にはもちろん、臨床で実際に治療にあたる医療関係者にも知らされないという形式の試験です。全く同じ治療薬でも、患者が「よく効くかも」という希望を持ちながら使用すると、持たずに使用する患者よりも治療成績が良かったりするという、身体に対する心理的影響、いわゆる「偽薬(placebo、プラセボ)効果」をできるだけ排除するために2重遮蔽(しゃへい)という操作が行われます。医療関係者の無意識の微妙な顔色などから治験参加者に実薬であるか偽薬であるかがバレないようにという事で、医療関係者に対しても情報が隠されます。 ◆偽薬対照(placebo controlled)試験 治験参加者を実薬群と偽薬群に振り分けて、両群の最終結果を比較する事で治療の有効性を判断する試験です。 英語のcontrolは一般に「制御」「支配」「管理」などの意味で使われている語ですが、医学においてなぜ「対(つい)にして照らし合わせる」という意味で使われているかといいますと、英語controlは、語源をさかのぼりますと、アングロ仏語、つまりイングランドを征服したノルマン人が使ったフランス語のcontreroller(コントルロレ)から来ていまして、 ◇contre- 「(2つが)対面した」 (英語のcounter-) ◇rolle 「巻物、記録書面」 (英語のroll) の2つから構成されていて、2つの対になる(巻物)書面を用意して、両方に記入して、厳重に事物を管理する事を元々指す単語だったからという事のようです。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ △△△△△△ ここまで論文の概要 △△△△△△ 【そのほかの情報源】 ◆UMIN CTR 臨床試験登録情報の閲覧 UMIN試験ID: UMIN000004401 試験名: 新しい漢方薬(シレイサン; Xilei San)坐薬を用いた直腸炎型活動期潰瘍性大腸炎患者に対する治療:単施設無作為化比較二重盲検試験による有効性の検討 (日本語) 最終データ内容更新日時: 2010/10/18 18:01:48 ◆锡类散 医学百科 (簡体字中国語) ↑錫類散の生薬配合レシピが3種類掲載されています。慢性非特異性潰瘍性結腸炎の治療に使用された例が簡単に紹介されています。保留浣腸、つまり注腸剤として投与され、総有効率は98.3%だったそうです。ベーチェット病の口腔潰瘍と会陰部潰瘍に対して外用で使用したところ完全に癒合した例も簡単に紹介されています。錫類散の存在は清朝中国の18世紀中頃まではさかのぼれるようです。『金匱翼』が初出とされているようです。 ◆金匱翼 巻五 咽喉 喉痺諸法 爛喉痧方 中医世家 (簡体字中国語) ◆金匱翼 巻五 咽喉 喉痺諸法 爛喉痧方 健康楽活網 (繁体字中国語) ↑錫類散の初出とされる部分です。ページの最後に記述があります。『金匱翼』著者の長年の友人である筆職人から、世のために広く公開して欲しいと頼まれた処方であるというエピソードも記されています。
結核の予防に使われるBCGワクチンが大腸の急性および慢性炎症を抑制する事を、フランスの研究チームが動物実験で確かめたそうです。実験に使われたBCGワクチンは拡張真空凍結乾燥法という新しい技法で作成された死滅型ワクチンだそうです。治療効果だけでなく予防効果もみられたそうです。ヒトにおける臨床試験を2013年に開始する予定だそうで、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)の治療薬を目指しての開発が予定されているようです。 フランスのパストゥール研究所は歴史ある研究所で、結核予防BCGワクチンを開発した「本家本元」です。死滅型BCGワクチンの拡張真空凍結乾燥法による新しい製造法を現在開発中で、このワクチンは従来のBCGワクチンよりも効果が高く副作用が少ないという動物実験の結果を以前に発表しています。この新しいBCGワクチンが動物実験で喘息に対して有用な炎症抑制効果を示した事も以前に発表しています。そして今回、大腸の炎症に対して治療効果と予防効果がある事を動物実験で確かめたと発表したようです。 ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ BCGワクチンが持つ炎症反応抑制効果の研究の発端となったのは、日本の和歌山における調査研究だったのだそうです。ツベルクリン反応陽性の児童はアトピー性皮膚炎の発症率が低いという調査結果の報告論文です。その後盛んに調査研究や動物実験がおこなわれるようになったそうです。「複数の疫学的研究、特に日本における研究で、BCGワクチンの接種を受けた子供ではアレルギー諸疾患や喘息の発症頻度が低い事が報告されています」と研究チームのリーダーがコメントしています。 BCGワクチンが炎症抑制効果を発揮するメカニズムについてですが、拡張真空凍結乾燥法BCGワクチンを皮下注射することによって制御性T細胞(T-reg)の増加とInterleukin-10、TGF-betaなどの炎症抑制性サイトカインの産生が導かれるからではないかと研究チームは動物実験による結果から推測しているようです。 拡張真空凍結乾燥法(extended freeze-drying)によるBCGワクチンは生ワクチンではなく死滅ワクチンなのでより安全で、しかも炎症抑制効果がより高いとパストゥール研究所はコメントしています。忍容性(=副作用などがもたらす不快感が耐える事ができるレベル内であるかどうか)は良好で、副作用はみられても軽いもので、免疫機能を低下させてしまわないという特長があるとアピールしています。実験に使われたワクチンはMycobacterium bovis 1173P2株からどうやら作られたようです。加熱、化学薬品、放射線照射などで菌を処理してワクチンを製造する従来の技法では分子に大きな改変が発生して有害な物質が生じたりするが、拡張真空凍結乾燥法(EFD)でもって製造すれば有害物質の発生が避けられると主張しています。 「Mycobacterium bovis」という名称から分かりますように、BCGの原料であるウシ型結核菌とMAP菌(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis)は同じマイコバクテリウム属に属しています。MAP菌がクローン病の発症に関わっているのではないかという情報を今までこのブログでたびたび紹介してきましたが、BCGワクチンが腸炎に対して抑制効果があるという今回の実験結果と何らかの関連があるのかも知れません。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ 【情報源】 ◆Un dérivé du BCG, piste prometteuse pour traiter les maladies inflammatoires chroniques intestinales (フランス語) MyPharma Editions Publié le Mercredi 17 août 2011 ◆Un dérivé du BCG testé contre la maladie de Crohn (フランス語) Priorité Santé Mutualiste [ créé le 25 août 2011 ] ◆Un dérivé du BCG contre la maladie de Crohn ? (フランス語) Destination Santé [25 août 2011 - 09h27] ◆研究チームがこのたび発表した論文: Mycobacterium bovis Bacillus Calmette-Guérin killed by extended freeze-drying reduces colitis in mice. Lagranderie M, Kluge C, Kiefer-Biasizzo H, Abolhassani M, Nahori MA, Fitting C, Huerre M, Bandeira A, Bercovier H, Marchal G. Institut Pasteur, Laboratoire d'Immunothérapie, Paris, France. Gastroenterology. 2011 Aug;141(2):642-52, 652.e1-4. Epub 2011 May 14. <論文要約> (英語) ◆拡張真空凍結乾燥法BCGワクチン皮下注射が喘息モデル動物に対して有効というマスメディア発表: Le BCG pour traiter l'asthme ? (フランス語) Site Web Institut Pasteur 15/01/2010 ◆Le vaccin BCG, une arme contre l'asthme ? (フランス語) Par TF& News (Avec agence) le 15 janvier 2010 à 17:57 ◆拡張真空凍結乾燥法BCGワクチンに関する学会での発表の様子(動画): Obtention de l'EFD (ITP-01) anti-inflammatoire dérivé du BCG par déshydratation (口頭発表:フランス語/スライド表記:英語) ◆拡張真空凍結乾燥法BCGワクチン皮下注射が喘息モデル動物に対しても有効な事を報告した論文: Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guérin killed by extended freeze-drying targets plasmacytoid dendritic cells to regulate lung inflammation. Lagranderie M, Abolhassani M, Vanoirbeek JA, Lima C, Balazuc AM, Vargaftig BB, Marchal G. Laboratoire d'Immunothérapie, Institut Pasteur, Paris, France. J Immunol. 2010 Jan 15;184(2):1062-70. Epub 2009 Dec 9. <無料全文.html> (英語) ◆ツベルクリン反応陽性の児童はアトピー性皮膚炎の発症率が低いことを報告した論文。日本での研究。この論文がBCGワクチンが持つ炎症抑制効果研究の発端: The inverse association between tuberculin responses and atopic disorder. Shirakawa T, Enomoto T, Shimazu S, Hopkin JM. Science. 1997 Jan 3;275(5296):77-9. <論文要約> (英語)
以前に 『腸管寄生虫が様々な自己免疫疾患を改善する可能性』 2011-09-23 『ブタの寄生虫の卵の服用による新治療法』 2005-10-14 で紹介しましたが、腸管寄生虫の生きた卵を服用し、腸管で孵化(ふか)させ、一定の期間活動させる事によって自己免疫疾患を改善する治療法が開発されつつあります。クローン病と潰瘍性大腸炎において最初に研究がおこなわれた治療法で、現在海外で当局の認可を目指した治験が行われつつあるようです。 【開発コード】 CNDO-201 【薬剤名】 ブタ鞭虫卵製剤 【海外での商標名】 TSO 【薬剤の系統】 生きた腸管寄生虫卵製剤 【現在の開発者】 Coronado Biosciences, Inc. Dr. Falk Pharma GmbH Ovamed GmbH (アルファベット順) 【製品の供給】 ドイツのOvaMed社が無菌、無ウイルスのブタ鞭虫卵(商標名:TSO)を供給しているようです。OvaMed社へはデンマークのParasite Technologies A/S社がSPF豚(無病原性豚)から採取した寄生虫卵を供給し、OvaMed社が10工程をかけて洗浄・殺菌しているようです。 【開発の段階】 ◇クローン病: ドイツ、デンマーク、オーストリア、チェコ、スイスで第2相。(活動期のクローン病患者に対する2重遮蔽・無作為・偽薬対照・多施設試験により、3つの異なる投与量におけるそれぞれの効果と安全性を評価) USAで第1相。(クローン病患者に対する用量連続漸増・2重遮蔽・偽薬対照・単回投与試験により、3つの異なる投与量における安全性と忍容性(=副作用などがもたらす不快感が耐える事ができるレベル内であるかどうか)を評価) ◇潰瘍性大腸炎: 海外で第2相 【投与形態】 経口(=口から飲む) 【既に認可を得ている適応】 なし 【ほかに開発が行われている疾患】 多発性硬化症: 海外で第1相 関節リウマチ: USAニューヨーク州Albany大で治験を実施予定 乾癬性関節炎: イスラエルで治験を実施予定 自閉症: USAで治験実施予定 季節性アレルギー: コペンハーゲンで治験を実施 落花生およびナッツアレルギー: ハーバード大で治験を実施 【副作用】 下痢、上腹部痛、腹部膨満など。いずれも軽度。 安全性についてですが、USAのアイオワ州では養豚業の従事者の約2割がブタ鞭虫を宿しているのだそうですが、この寄生虫への暴露による職業病は見られていないという事が安全性の根拠の1つとなっているようです。更に、ブタ鞭虫は人間の腸の中で卵からかえっても長くは生きられないそうです。しかしそのために、2週間に1度の服用が必要となってしまうようです。 なぜブタの寄生虫を使用し人間の寄生虫を使用しないのかですが、ヒト鞭虫は時に貧血などの副作用を起こすからだそうです。 【詳細】 クローン病と潰瘍性大腸炎に対するブタ鞭虫による寄生虫療法を考案し最初に実施したUSAアイオワ大学のWeinstock氏のコメントによりますと、寄生虫への感染率が低い国ほど自己免疫疾患の発症率が高いという事実から、寄生虫が寄生しなくなった事で先進国の住人は自己免疫疾患にかかりやすくなったのではないかという仮説を立て、寄生虫療法を考え付いたそうです。下のリンクのページ中の図は、右が「寄生虫感染率」(Helminths infestation incidence)で、左が「自己免疫疾患発症率」(Autoimmune disorders incidence)です。見事に逆の分布になっています。 ↓ Hygiene Hypothesis for CNDO-201 (英語) 作用のメカニズムは、ブタ鞭虫が人間のTリンパ細胞(Th1とTh2)の活動を抑制する事によると、研究者達は現在のところ考えているようですが、現在臨床で治療に用いられている既存の免疫抑制剤においては重篤なものを含むさまざまな副作用が報告されているのに対して、この治療法では軽度な副作用しか報告されていないようです。ブタ鞭虫が人間の免疫を抑制する何らかの化学物質を分泌していると仮定しまして、ひょっとすると寄生虫には宿主(=人間)の体調に合わせてきめ細かに分泌量を調節する能力があるのではないかと、草はみは仮説を思いつきます。免疫の総力は、昼間と夜間で違いますし、精神的ストレスや過酷環境などの身体的ストレス、摂取食物に含まれる免疫影響物質などによって分単位で目まぐるしく昇降するのだと思うのですが、寄生虫はそれらを敏感に察知して免疫抑制物質の分泌量をきめ細かに24時間体制で調節しているのではないでしょうか。なので既存の免疫抑制剤に共通して見られる重篤な感染症などの副作用が出ないのではないでしょうか。 寄生虫には平和共存主義のものと略奪主義のものがいるようですが、平和共存主義の寄生虫の立場に立ってみますと、宿主(人間)が短命だと自分達寄生虫も短命を余儀なくされてしまいます。殺し合いを好まない穏やかな性格になっていただいて、或る程度長生きしてもらって、或る程度健康に暮らしていただいて、或る程度稼いで美味しい物を食べていただけると、自分達寄生虫も安定した環境で充分な栄養にありつけることになります。宿主に或る程度以上の元気があると旅行などの遠出を頻繁にしますので、便に生み付けた卵をあちこちにばら撒いてもらえて子孫繁栄につながります。ですので、平和共存主義系の寄生虫の中には、栄養をもらうかわりに「免疫機構精密調節サービス」を人間に対して実施している種があるかも知れません。日本の会社でも、「散歩のように毎日機器を覗(のぞ)いて巡っているだけの給料泥棒め」と技術者を解雇して後に、正常な運用のための微妙な調整に重要な役割を果たしていた事に気が付くが、真似できる人がおらず、時既に遅しといったような事例があるようです。このように、ラインが不具合だらけの病的状態になってしまっている事業所が多い事に驚きます。(ちなみに、解雇されたのちに中国や韓国の新興メーカーにスカウトされて現地で若い技術者の育成指導にあたっている人も少なくないようです)。一方、会社内で決して解雇されない高い地位に座っている人が会社の大きなお金をありえない事に浪費してしまい、会社が瀕死の状態になってしまっているというような事例もあるようです。これはあきらかに略奪主義系の寄生虫です。 ところで、日本の寄生虫研究者で、日本のサナダムシが絶滅寸前であることに危機を感じて、自分のお腹でサナダムシを飼っていた人がいます。今回紹介した治験ではブタ鞭虫が採用されていますが、もっと優れた免疫調節能力を持つ絶滅危惧寄生虫種がいるかも知れません。 【主な情報源】 ◆Coronado Biosciences Signs Binding Terms of Agreement to enter into Collaboration for Development of CNDO-201 for Crohn’s disease with Dr. Falk Pharma and OvaMed (英語) December 22, 2011 ↑ この対マスメディア発表文書の中に「Japan」という単語が見られるのですが、近い将来日本でも治験を実施する事を視野に入れているのかも知れません。 ◆TSOの治験状況の一覧: Search of: Trichuris Suis Ova - List Results - ClinicalTrials.gov (英語) ◆Coronado Biosciences (NASDAQ: CNDO) a new public company developing unique products for autoimmune diseases and cancer (PDFファイル形式) (英語) Bobby W. Sandage, Jr., PhD President & Chief Executive Officer January 2012
【作用のメカニズム】 患者から取り出した血液から白血球の1種である制御性Tリンパ細胞を抽出して、増殖させて数を増やし、再び患者の体内に戻す事で免疫機構の本来のバランスを取り戻させて、過剰な免疫反応を抑制し、慢性炎症性疾患や自己免疫疾患を治療する戦略の治療薬(治療法)のようです。 【薬剤の系統】 自己由来・抗卵白アルブミン・1型制御性Tリンパ細胞(Autologous anti-ovalbumin type 1 T regulatory lymphocytes) 【海外での商標名】 OvaSave 【現在の開発者】 TxCell社 (フランスの国立研究機関であるInsermを発祥母体として2001年に設立された研究開発会社。自己由来Tr1細胞による治療法開発に特化しているようです。本社はフランスのニース) 【開発の段階】 クローン病: 難治性の活動期重症患者を対象として、ヨーロッパにおいて第1相と第2a相 【投与形態】 静脈より点滴注入 【既に認可を得ている適応】 なし 【ほかに治験が実施されている疾患】 潰瘍性大腸炎に対して治験準備中 【副作用】 現在実施されている治験の途中経過発表によりますと、「耐容性は良好(=患者にとってつらい副作用はあまりみられない)」だそうです。骨髄移植とは違いまして、注入前に抗癌剤、免疫抑制剤、抗菌剤などによる強い処置は必要ないと思いますので、副作用の点では骨髄移植より安全だと思います。 【詳細】 12週間・多施設・オープン・対照群非設定・用量範囲探索・第1相/第2a相治験をヨーロッパにおいて現在実施中だそうです。結果は2010年の末に出る予定だそうです。 「オープン形式治験」は、投与する薬剤の内容を患者が知らされた状態で行なう治験の事です。反対語は「遮蔽(しゃへい)形式治験」です。 ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ 免疫寛容(めんえきかんよう)(immunological tolerance)という現象が免疫学の分野で知られていまして、自分自身由来の物質、または、摂取した無害な食材、気管から吸い込んだ比較的安全な雑物、皮膚に付いた比較的安全な雑物、腸内や皮膚にいる善玉菌などに対しては、免疫機構が「ほぼ無害か有益な物質である」と判断して、攻撃しない現象の事です。 TxCell社の解説ページによりますと、 TxCell - Tr1 pathway to cure immune diseases - Technology. (英語) 免疫細胞に免疫寛容の教育をする場所、つまり特に敵ではない物体に対して攻撃したりしてはいけない事を教えるための教育研修器官は主に2つあり、胸腺と末梢だそうです。 更に、末梢性免疫寛容には3系統の研修コースがあるそうです。 ◆クローン除去(clonal deletion) ◆反応性T細胞のanergy誘導 ◆制御性T細胞(Treg細胞)による免疫反応抑制 クローン除去とは、反応してはいけない抗原に対して反応するかどうかの試験を実施し、反応してしまった免疫細胞をアポトーシス死させる事です。anergy誘導とは、反応してしまった免疫細胞を、殺しはしないが、忍法金縛りの術をかけるかのようにして働きを封じる事です。制御性T細胞(Treg細胞)による免疫反応抑制とは、文字通り、この細胞が免疫反応を抑制するように周りに命令する事によって免疫細胞をおとなしくさせる事です。OvaSaveはこの3つめの機構を利用した治療製剤です。 OvaSaveの製法についてですが、TxCell社の別の解説ページによりますと、 TxCell - Tr1 pathway to cure immune diseases - Our Manufacturing Process. (英語) 患者から血液を採取し、或る特定の抗原を加えてリンパ球を刺激し、限界希釈培養法でもってリンパ球を培養し、特異抗原反応性の1型制御性Tリンパ細胞(Tr1)を特定し、それらを集めて、クローン培養し、余分なものを除いて、冷凍保存するといった行程からなるそうです。これを解凍して患者に点滴で戻すそうです。 卵白アルブミンに反応するTr1を選択する理由は調べ切れませんでしたが、ひょっとすると、体内に戻されたTr1が腸壁のみにおいて活動するようにするためかも知れません。もしそうすると、卵白や卵白を含む食品を全く摂らない人においては効果が出ない可能性がありますが、そのあたりも不明です。絶食中の入院患者では効果が出ない可能性も想定できます。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ 【そのほかの主な情報源】 ◆TxCell annonce des résultats préliminaires positifs pour l’essai clinique de Phase I/IIa d’OvaSave(R) dans la maladie de Crohn. (フランス語) Valbonne, France, le 29 avril 2010 ◆MALADIE DE CROHN : Une solution THERAPEUTIQUE pour les patients « difficiles » (フランス語) Actualité publiée le 29-04-2010 ◆YouTube上にあるTxCell社作成の解説CG動画: YouTube - TxCell controlled immunity (英語)
クローン病患者から血液を採取して、その血液中の赤血球にステロイド剤を荷わせて、血液を再び患者に戻し、その赤血球にステロイド剤を長期にゆっくりと放出させるという新しい治療法の治験がイタリアなどで実施されるようです。 ◇クローン病である ◇ステロイド剤依存(=ステロイド剤の投与量をなかなかゼロにする事が出来ない)、または免疫抑制剤抵抗性(=投与しても効果がない)、または免疫抑制剤不耐性(=副作用のために投与を続けられない)である ◇症状が活動期である という条件を満たす患者において治験を実施する計画のようです。 この治療法の開発目的は、既に医療で使われていて効果がある事が判っている薬剤を、最新の投与法を用いて、最小量を使用して、経口(=口から飲む)で現在使用しているステロイド剤の投与量をゼロにする事だそうです。 今回のこの第3相、無作為、偽薬対照試験では、月に1回患者から血液を50ml採取して、特殊な手法を用いて赤血球の内部にステロイド剤の1種であるリン酸デキサメタゾンを充填して、すぐに患者の体に再び注入し、赤血球に血液中で長期に連続的に薬剤を放出させ、経口ステロイド剤を減らせるかどうかを調べる予定のようです。 デキサメタゾン(dexamethasone)はヨーロッパで既に市販されており、クローン病を含むさまざまな疾患において何十年も頻繁に使用されているそうです。 ローマ、ミラノなどのイタリアの諸都市をはじめ、そのほかのヨーロッパの諸都市において、クローン病の専門医の元で実施される予定だそうです。 イタリアの小児クローン病患者18人に対して4週おきに24ヵ月間この治療法を実施した治験の結果が2007年に論文として出されているのですが、78パーセントの患者で経口ステロイド剤を切ることが出来、44パーセントにおいて内視鏡観察で寛解が認められ、重篤な副作用は観察されなかったそうです。 【情報源】 ◆イタリアの患者団体A.M.I.C.I.のホームページ上の記事: Studio clinico in pazienti con Malattia di Crohn “steroido dipendente” (イタリア語) ◆Long-term treatment with autologous red blood cells loaded with dexamethasone 21-phosphate in pediatric patients affected by steroid-dependent Crohn disease. Castro M, Rossi L, Papadatou B, Bracci F, Knafelz D, Ambrosini MI, Calce A, Serafini S, Isacchi G, D'Orio F, Mambrini G, Magnani M. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2007 Apr;44(4):423-6. [論文要約] (英語) ◆Desametasone-intraeritrocitario nei pazienti con malattia di Crohn steroido-dipendente. (イタリア語)
海外での新薬開発の情報です。副作用の点で改善された新世代ステロイド剤の新しい剤型がイタリアの製薬会社によって開発され、潰瘍性大腸炎に対して治験段階にあるようです。 【作用のメカニズム】 budesonideはニュー・ステロイドと呼ばれる薬剤の1つで、病変部で薬効を発揮したあと、体内に吸収されると速やかに分子の形が変わって作用性が落ち、体外に排出され易くなるため、副作用の程度が比較的低いという特長がある薬剤です。 吸収されてしまうと薬効が落ちますので、ブデソニドが直接炎症部に及ぶように投与形を工夫する必要があるのですが、MMXと名付けられているdrug delivery system(薬剤送達システム)を採用して大腸全体にまんべんなくブデソニドが行き渡るようにしたようです。 【開発コード】 CB-01-02 【薬剤名】 budesonide(ブデソニド) 【薬剤の系統】 ニューステロイド剤・徐放剤カプセル 【現在の開発者】 Cosmo Pharmaceuticals S.p.A. (炎症性腸疾患や感染腸炎に対するMMXの技術を応用した治療薬を主要な開発分野としているイタリアの製薬会社のようです。) 【開発の段階】 海外: 軽症および中等症の潰瘍性大腸炎に対して第3相 【投与形態】 経口(=けいこう。口から飲む)徐放剤カプセル 【既に認可を得ている適応】 ブデソニドにつきましては、喘息に対する吸入剤、クローン病に対する経口徐放剤、鼻炎に対する点鼻剤などが臨床で既に使用されています。 また、MMXの技術は5ASA製剤にも応用されて、Lialda/ Mezavantという商品名で潰瘍性大腸炎の治療薬として海外で既に臨床で使用されています。 【副作用】 ステロイド剤としてよく用いられる経口プレドニゾロンよりは副作用が少ないようですが、副作用がゼロという訳ではないようです。頻度が少ないとしても同じような副作用が起こりうると考えておいたほうが良さそうです。 【詳細】 ブデソニドは、吸収されると薬効が落ちますので、直接炎症部に及ぶように投与形を工夫しなければ効果を発揮しません。そこで、ブデソニドをクローン病や潰瘍性大腸炎の治療薬として利用するために各製薬会社によって幾つかのdrug delivery system(薬剤送達システム)が採用されているようです。 別の製薬会社が開発した先行商品であるエントコートECカプセル(Entocort EC Capsule)は、USAではクローン病に対して既に認可され、日本でもクローン病に対して治験中なのですが、有効成分のブデソニドを小腸の最後の部分から上行結腸にかけて放出するように設計されているようです。 一方、Cosmo PharmaceuticalsはMMXと名付けられているdrug delivery system(薬剤送達システム)を応用しているようです。薬剤を大腸全般にまんべんなく放出することが出来るそうです。 下の「主な情報源」の一つめのリンクには、MMX薬剤送達システムが時間経過と共にどのように薬剤を放出するかをシンチグラフで観測した結果が画像として6つ示されています。MMXカプセル服用から1時間半後に十二指腸に達していますが、薬剤の放出はまだ始まっていないようです。4時間半後には上行結腸に達してそこで放出を開始しているようです。7時間半後には薬剤を放出しながら横行結腸の真ん中に達しています。10時間後には脾(ひ)湾曲部に達しています。16時間後には下行結腸からS字結腸あたりに達しています。24時間後には直腸に達しています。どのような患者でもこの通りにうまくいくのでしたら素晴らしいです。 MMX技術の詳細ですが、どうやら、親油性基材と親水性基材に有効成分を含有させて錠剤とし、アルカリ環境下で溶ける特殊なアクリル系の樹脂でその周りをくるむということらしいです。樹脂はpHの数値が7以上、つまりアルカリ性になると溶けるものらしいです。どうやら小腸の最後のあたりで溶けるようです。そして、親水性基材が水分を吸収してゲル状になって薬剤の放出をコントロールするようです。親油性基材は水分の侵入をコントロールして急激な薬剤放出を阻止しているようです。 ステロイド剤の副作用に悩まされている潰瘍性大腸炎患者は少なくないですから、この製剤が日本でも使えるようになればと思います。 【主な情報源】 ◆イタリアの患者団体AMICI配信の最新情報: A.M.I.C.I. Federazione Nazionale - Associazione Malattie Croniche dell'Intestino - Trial Budesonide MMX (イタリア語) ◆MMX技術を使った5ASA剤の徐放剤Lialdaの動画解説: MMX Technology, Mesalamine Delivery in Ulcerative Colitis Video Demonstration| Lialda.com (英語)
ベリー(漿果)類などに多く含まれる紫色の天然色素であるアントシアニンに、炎症発生に関連する酵素である5-リポキシゲナーゼの働きを阻害する能力がある事を、ドイツのヴュルツブルグの研究チームが論文として発表したようです。潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性大腸疾患の予防や治療にベリー類から抽出したアントシアニンを活用出来る可能性があるとコメントしているようです。 「炎症性腸疾患にかかっている多くの人が、ビルベリー(英語:bilberry)(ドイツ語:Heidelbeere)をたくさん食べると調子がよくなると感じています」と研究チームのBastian Knaup氏はコメントしているようです。 古代ギリシャ人や古代ローマ人はビルベリーを大腸疾患の治療薬として用いていたそうです。ドイツ薬草学の祖とされる中世の修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンもベリー類に薬草としての価値を発見していたそうです。ベリー類に実際の治療効果が有るのかどうかという事は科学的にはまだしっかりと証明されていないようですが、USAではビルベリーの抽出液が栄養補助食品として販売されているそうです。 5-リポキシゲナーゼはロイコトリエンという一連の炎症誘起性物質がアラキドン酸という物質から生成する際に必要な酵素です。この5-リポキシゲナーゼの働きをアントシアニン類が阻害する事を実験室で確認したそうです。アントシアニン類色素の中でもデルフィニジンという物質が特に高い効果を持っているそうです。ところが、このデルフィニジンは残念ながら腸の中では構造的にそんなに安定ではないそうです。この物質を安定化させる方法を今後研究する予定だそうです。 ちなみに、アントシアニン類にはペラルゴジニン、シアニジン、デルフィニジンなどがあって、よく似た分子構造を持っています。ポリフェノール類の1カテゴリーでもあり、抗酸化物質でもあります。天然色素であるアントシアニン類は、ビルベリーなどのしょう果(ベリー)類だけに含まれているわけではなく、赤キャベツやナスや黒豆や赤ワインの色などもアントシアニン色素によるものですが、含有量の点からはベリー系が圧倒的なようです。 人間に対しての投与臨床試験はまだ行なわれていないそうですが、ベリー類の摂取に特に副作用がある事は無いと推測出来ますので、安全な治療薬として今後研究が進む事を期待します。 ところで、私、草はみはブルーベリージャムを毎日パンに塗って食べています。個人的な体験ですが、何年か前に、「ブルーベリーは目にいい」という情報を聞いて果実量の多いブルーベリージャムを買ってきて摂り始めたのですが、ほとんど効果を感じませんでした。2ヶ月ほどでジャムのビンは空になり、摂取が中断されて3日目に夜間に車を運転する機会があったのですが、ブルーベリージャムを摂っていた時と比べて明らかに夜間視力が落ちていました。物体がぼやけ気味に見え、非常に運転に疲れました。あわててまた買ってきて摂り始めると、5日後くらいには夜間運転における視力が回復していました。ひょっとすると、夜間視力改善効果が本当に有るのかもしれません。そして、効果が出るまでには多少時間がかかるけれども、中止するとすぐに効果が落ちてしまうという特徴が有るのかもしれません。 【主な情報源】 ◆Heidelbeeren: Farbstoffe hemmen Enzym (ドイツ語) ◆研究チームの発表した論文: Anthocyanins as lipoxygenase inhibitors. Knaup B, Oehme A, Valotis A, Schreier P. Mol Nutr Food Res. 2008 Dec 15. [Epub ahead of print] [論文要約] (英語)
「マムシ血清」や「ハブ血清」などとして抗体製剤は以前から医療薬として用いられてきたのですが、近年のバイオテクノロジーの発展がもたらした技術革新によってレミケードなどの新しい世代の抗体製剤が出て来ました。「モノクローナル抗体製剤」、つまり、薬剤中の抗体分子が全て全く同じ形の製剤の作成が可能となり、更には、異なる動物種のDNA設計図をつなぎ合わせた形になっている「キメラ抗体製剤」というものの作成も可能となり、それらが医療で使われるようになりました。 ちなみに、マムシ血清やハブ血清などは、ちょっとずつ形が違う抗体分子が無数に混在する「ポリクローナル抗体」です。このポリクローナル抗体製剤に対してモノクローナル抗体製剤には、どのバイアル(=製剤の入った小ビン)も効果の強さが同じになるという長所があります。 またちなみに、キメラ抗体の「キメラ」というのは、ギリシア神話に出てくる空想上の怪物「キマイラ」(ギリシア文字でΧιμαιρα。ローマ字に転写するとChimaira)から来ているそうです。「ライオンの頭と山羊の胴体と蛇の尻尾を持っている」そうです。違う種類の動物がつなぎ合わさっているこの怪物の名にちなんで、遺伝子組み替え技術を使って違う動物のDNA設計図をつなぎ合わせて作成した抗体を「キメラ抗体」と研究者達は名付けたようです。下の図像はキマイラです。古代ギリシャの詩人ホメーロスの『イリアス』にもこの怪物の記述がみられ、 "ἣ δ᾽ ἄρ᾽ ἔην θεῖον γένος οὐδ᾽ ἀνθρώπων, πρόσθε λέων, ὄπιθεν δὲ δράκων, μέσση δὲ χίμαιρα, δεινὸν ἀποπνείουσα πυρὸς μένος αἰθομένοιο," (古代ギリシャ語) 「・・・ そしてそれは、人間ではなく神の血統に属するもので、体の前部がライオンで、後部が龍で、中央部がメス山羊で、強力で恐ろしい燃え上がる炎を吐いている ・・・」という姿だそうです。 ![]() http://de.wikipedia.org/wiki/Chimäre_(Mythologie) ちなみに草はみが住んでいます大阪では、シマウマ柄の帽子、パイソン柄のジャケット、ライオン顔のシャツ、ヒョウ柄のパンツ、ダチョウ皮の靴というような姿の キメラおばちゃん が口から火を吐きながら街を闊歩しています(笑)。さらに、散歩させている犬にトラ柄の服を着せていたりします(爆)。 日本では、クローン病に対して、キメラ型・モノクローナル抗体製剤であるインフリキシマブ(商品名:レミケード)が既に認可されており、更に、ヒト型・モノクローナル抗体製剤であるアダリムマブ(商品名:ヒュミラ)が治験の第3相にあるそうなのですが、ところで実は、インフリキシマブ(infliximab)やアダリムマブ(adalimumab)という一般名のつづりを見れば、どういった種類の抗体製剤であるかが大体わかるようになっています。抗体製剤に対するそういった命名の法則について以下で解説したいと思います。 抗体はタンパク質で出来ていますが、下の図のような、「もつれた毛糸の塊で作ったY字型」のようなものが抗体の姿です。ほどきますと、長い毛糸2本(重鎖)と短い毛糸2本(軽鎖)の計4本になります。赤い毛糸はネズミのDNA情報に従ってつむがれた部分を示していて、青い毛糸はヒト(人間)のDNA情報に従ってつむがれた部分を示しています。人間の体内に入れた場合、ネズミ由来の赤い部分をヒトの免疫機構が外部からの侵入者と認識するため、強いアレルギー反応を起こすことがあります。ちなみに、Yの字の上部の両先端が標的に喰らい付く部分です。 ■命名の実際例■ マウス抗体製剤 ![]() 100%ネズミのDNA設計図によって作られている oregovomab (商品名:OvaRex) ore(固有名)+gov(卵巣腫瘍(癌)が標的)+o(マウス抗体)+mab(モノクローナル抗体) arcitumomab arci(固有名)+tum(腫瘍(癌)が標的)+o(マウス抗体)+mab(モノクローナル抗体) キメラ抗体 ![]() ネズミのDNA設計図によって作られた部分 ヒトのDNA設計図によって作られた部分 infliximab (商品名:Remicade) inf(固有名)+li(免疫関連物質(細胞)が標的)+xi(キメラ抗体)+mab(モノクローナル抗体) rituximab (商品名:MabThera) ri(固有名)+tu(腫瘍(癌)が標的)+xi(キメラ抗体)+mab(モノクローナル抗体) abciximab (商品名:ReoPro) ab(固有名)+ci(心血管に対する治療薬)+xi(キメラ抗体)+mab(モノクローナル抗体) ヒト化抗体製剤 ![]() ネズミのDNA設計図によって作られた部分 ヒトのDNA設計図によって作られた部分 標的に喰らい付く部分だけがネズミ由来の設計図で作られています。 natalizumab (商品名:Tysabri) nata(固有名)+li(免疫関連物質(細胞)が標的)+zu(ヒト化抗体)+mab(モノクローナル抗体) palivizumab(商品名:Synagis) pali(固有名)+vi(ウイルスが標的)+zu(ヒト化抗体)+mab(モノクローナル抗体) ヒト抗体製剤 ![]() 100%ヒトのDNA設計図によって作られている adalimumab (商品名:Tysabri) ada(固有名)+lim(免疫関連物質(細胞)が標的)+u(ヒト抗体)+mab(モノクローナル抗体) denosumab den(固有名)+os(骨に対する治療薬)+u(ヒト抗体)+mab(モノクローナル抗体) efungumab (商品名:Mycograb) e(固有名)+fung(真菌が標的)+u(ヒト抗体)+mab(モノクローナル抗体) ■つづり字の意味の一覧■ 抗体の標的または治療対象部位は何か lim = immune 免疫関連物質または免疫関連細胞 kin = interleukin インターロイキン bac = bacterium 細菌 vir = virus ウイルス fung = fungus 真菌 toxa = toxin 毒素 cir = cardiovascular 心血管 ner = nervous system 神経 mul = musculoskeletal 筋骨格 les = infectious lesions 感染部 os = os(ラテン語) 骨 tum = tumors 腫瘍(癌)一般 col = colon 大腸腫瘍(癌) got = gonad/testis 性腺/睾丸腫瘍(癌) gov = gonad/ovary 性腺/卵巣腫瘍(癌) mar = mammary 乳腫瘍(癌) mel = melanoma 黒色腫 pro = prostate 前立腺腫瘍(癌) (注: ゴロが良くない場合、最後の子音は省略されることもあります) 抗体のDNA設計図がどの動物のものか xi = chimera キメラ抗体(=複数の動物の設計図を結合) zu = humanized ヒト化抗体(=ほとんどの部分が人間の設計図) u = human ヒト抗体(=100%人間の設計図) a = rat ネズミ抗体 e = hamster ハムスター抗体 i = primate 霊長類(サル類)抗体 o = mouse ハツカネズミ抗体 抗体が単クローンか多クローンか mab = monoclonal antibody 単クローン抗体 pab = polyclonal antibody 多クローン 【参考とした記事】 ◆スイスの患者団体ASMCCの記事: Les anticorps monoclonaux dans le traitement des maladies inflammatoires chroniques de l’intestin. (フランス語) 『慢性炎症性腸疾患の治療におけるモノクローナル抗体』 Prof. Dr. med. Dr. phil. Gerhard Rogler, Gastro-entérologie et hépatologie, Hôpitaux Universitaire de Zurich Association Suisse de la Maladie de Crohn et Colite ulcéreuse ◆スイスの患者団体ASMCCが開催したシンポジウムで使用されたスライド画像集: Nouveaux traitements pour les MICI : quels espoirs ? (フランス語) 『IBDに対する新しい治療法: どのような期待を持てるか』 Dr Philippe de Saussure gastroentérologie et hépatologie F.M.H. 21 novembre 2007 ◆ドイツのLindauでの催しで使用されたスライド画像集: Vor- und Nachteile der Biologika – bei wem und zu welchem Zeitpunkt sollten sie eingesetzt werden? (ドイツ語) 『生物学的製剤の長所と短所 - 誰からいつ投与されるべきか?』 Gerhard Rogler ◆PHARMACOTRIVIA Making sense out of “MAbs” (英語) 『薬のトリビア 「MAbs」の意味』 Reproduced with permission from SHANDS at the University of Florida Drugs & Therapy Bulletin Volume 16, Number 1 January 2002
【作用のメカニズム】 ワクチン接種に似たメカニズムで炎症誘起性の体内物質であるTNF-alphaを中和する戦略の薬剤のようです。インフリキシマブなどの人工合成TNF-alpha中和抗体を外から体内に注射するのではなくて、患者自身の免疫機構に中和抗体を作らせるという戦略のようです。 ヒトTNF-alphaタンパク質を分子レベルで細切れにし、それを担体タンパク質にまぶしたものがTNF-alpha-Kinoidで、それを患者の体内に注射すると患者の免疫機構がTNF-alphaに対するポリクローナル自己抗体をつくるようになり、その自己抗体が患者の体内で過剰になったTNF-alphaを中和し、炎症が沈静化するというメカニズムのようです。 【薬剤の系統】 TNF-alpha-Kinoid (抗TNF-alpha自己抗体産生誘導性治療ワクチン) 【現在の開発者】 Néovacs (フランスのPierre et Marie Curie Paris 大学が創設母地となって免疫学の教授が1993年に設立したベンチャー企業) 【開発の段階】 海外: クローン病に対して第1相と第2相 (12から18人の活動期クローン病患者を対象に、薬剤の安全性を確認し、最適投与量を探るための治験を南アフリカ共和国で開始したそうです。人間に対する投与はこれが世界で初めてのようです) 【投与形態】 注射 【既に認可を得ている適応】 なし 【ほかに治験が実施されている疾患】 なし 【副作用】 不明(人間に対する投与がまだなされていない) 【詳細】 TNF-alphaが発症に関わっている自己免疫疾患、例えば慢性関節リウマチ、クローン病、乾癬などに対して効果が期待される治療ワクチンのようです。 効果は3から6ヵ月持続し、年に2から4回の投与で効果を維持出来ると予測されているようです。レミケードなどの抗TNF-alpha抗体製剤の場合のような無効化抗体の出現が無いようで、また、コストもより安く作成できるようです。 ▽▽▽▽▽▽ ここから内容が少し専門的 ▽▽▽▽▽▽ このワクチンは患者の免疫機構に自己のTNF-alphaに対する自己抗体を作らせる事によって効果を発揮するのですが、「自己由来の抗原に反応してしまうリンパ球はアポトーシスによって排除されてしまっているので、自己抗原というものは産生されないのでは?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに薄い免疫学の教科書にはそのような内容が書かれていますが、ちょっと分厚い教科書を読めば、自己反応性リンパ球の排除機構は完璧ではなく、たとえ健康体であっても少量の自己抗体が作られているということが書かれています。 △△△△△△ ここまで内容が少し専門的 △△△△△△ 【主な情報源】 ◆Néovacs, a biotechnology company, begins a phase I/II clinical trial with the candidate TNFα-kinoid for the treatment of Crohn’s disease. (英語: PDFファイル) ◆Néovacs社のサイトのメカニズムの説明のためのページ(図あり) (英語) ◆動物実験の結果を報告する論文: TNFα kinoid vaccination-induced neutralizing antibodies to TNFα protect mice from autologous TNFα-driven chronic and acute inflammation. Hélène Le Buanec, Laure Delavallée, Natacha Bessis, Sébastien Paturance, Bernard Bizzini, Robert Gallo, Daniel Zagury, and Marie-Christophe Boissier. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 December 19; 103(51): 19442–19447. Published online 2006 December 8. doi: 10.1073/pnas.0604827103. PMCID: PMC1748245 [無料全文.html] (英語)
【作用のメカニズム】 細胞の核の中でDNAをコンパクトに巻き取る役目をしているヒストンというタンパク質があるのですが、そのヒストンからアセチル基をはずす役目をしている酵素の働きを阻害する薬剤のようです。癌に対する効果が知られているようなのですが、そのほかに炎症を抑える効果があるようです。 【開発コード】 ITF2357 【薬剤の系統】 ヒストン脱アセチラーゼ阻害剤 【現在の開発者】 Italfarmaco S.p.A. (イタリア・ミラノ) 【開発の段階】 海外: クローン病に対して第2相 (標準的な治療で改善しない中等症から重症の難治性クローン病に対して多施設・無作為・偽薬対照試験の参加者をヨーロッパで現在募集中のようです。投与量と投与期間は50mgを2回/日を8週間のようです) 【投与形態】 経口(=口から飲む) 【既に認可を得ている適応】 なし 【ほかに治験が実施されている疾患】 全身型若年性特発性関節炎(SOJIA) 慢性骨髄増殖性疾患 ホジキンリンパ腫 など 【副作用】 不明 (免疫抑制系の薬剤に共通な副作用、例えば感染症、血球減少などがおそらく存在すると思います) 【詳細】 癌に対する効果があるようですが、少ない用量で免疫抑制の効果があるようです。免疫抑制剤としては新しい系統の薬剤となるかもしれません。 DNAは、例えばヒトでは1本約2mもの長さがあるのですが、小さな細胞の核の中にコンパクトに収まるようにヒストンというタンパク質で出来た糸巻きのようなものに巻き取られています。そのヒストンに対するアセチル化という化学的修飾を阻害する薬剤のようです。 細胞の核は「遺伝情報が書かれたDNAを収蔵する図書館」のといったような場所なのですが、この図書館においてはDNAは全て「巻物」の形で収納されています。ヒストン脱アセチラーゼという酵素は巻物の軸からアセチル基という化学物質を外してその巻物の巻きを固くしてDNA情報が読み出されにくくなるようにする役目をしている酵素です。ちなみに、逆の働きをしているヒストン・アセチルトランスフェラーゼという酵素も存在します。ヒストン脱アセチラーゼの働きが妨害されDNA情報が読み出され易くなるとなぜ免疫抑制効果や癌抑制効果がみられるのかは、詳細は不明のようです。予想とは逆の効果です。しかし、免疫抑制剤には発癌確率の上昇を副作用として持つものが多いですので、逆に発癌確率を下げる新しい免疫抑制剤の登場とならないものか、期待が持たれます。 下のサイトで、DNAがヒストンにどのような形に巻き付けられているのか、ヒストン脱アセチラーゼによる脱アセチル基によってDNAの巻き取られ方がどのように変化するのかをCG動画によって理解することが出来ます。 Find information about targeting HDAC at TargetHDAC.com (英語) 【主な情報源】 ◆Efficacia clinica di anti-histone deacetilasi nella malattia di Crohn moderata severa (イタリア語) ◆The Histone Deacetylase Inhibitor ITF2357 Reduces Production of Pro-Inflammatory Cytokines In Vitro and Systemic Inflammation In Vivo. (英語) Flavio Leoni, Gianluca Fossati, Eli C Lewis, Jae-Kwon Lee, Giulia Porro, Paolo Pagani, Daniela Modena, Maria Lusia Moras, Pietro Pozzi, Leonid L Reznikov, Britta Siegmund, Giamila Fantuzzi, Charles A Dinarello, and Paolo Mascagni1. Mol Med. 2005 Jan–Dec; 11(1-12): 1–15. [無料全文.html] < 前のページ次のページ >
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