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USAの医薬品管理当局であるFDAが、大腸内視鏡検査の前処置などに使用される腸管洗浄剤のうち経口リン酸ナトリウム系の製品について、使用者において急性リン酸腎症というまれで重篤な副作用が発生したとの報告があったことを受けて、製剤の添付文書に新たに黒枠警告を追加する事と、この副作用のリスクを調査する事を関連製薬会社に要求したようです。 リン酸ナトリウム系腸管洗浄剤は日本ではビジクリア(商標名)が認可されて臨床で使用されています。錠剤を飲んでそのあとに指定された量の水分を摂るというタイプのもので、最初から調製された液体を飲む従来タイプよりは味覚に関して苦痛が少ないとされる物です。ビジクリアの添付文書(=医療従事者向けの使用説明書)には既に急性リン酸腎症のリスクが記載されていますが、警告の欄にそのリスクを記載するまでには到っていないようです。 急性リン酸腎症は、リン酸カルシウムの結晶が腎臓の尿細管に沈着してしまい、腎臓の機能が急性に損なわれてしまう症状だそうで、腎臓の機能が永久に失われてしまう可能性もある重篤な症状だそうです。リン酸ナトリウムを大量に摂取した場合に起こり得るそうなのですが、日常生活ではリン酸ナトリウムの大量摂取といったことはまず起こり得ず、この成分を主成分として持つ腸管洗浄剤や下剤を服用する際にこの症状を注意しなければならないようです。 ◆55歳以上の人 ◆血液量が減少している人 ◆腎臓病のため腎臓の基礎能力が落ちている人 ◆腸閉塞を起こしている人 ◆活動期の大腸炎がある人 ◆利尿剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断剤(ARBs)、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)、その他などの、腎臓の機能に影響する薬剤を使用している人 は経口リン酸ナトリウム製剤を使用したときに急性リン酸腎症が起こるリスクが高いそうです。 急性リン酸腎症は、経口リン酸ナトリウム製剤を直近に使用した患者に、微量の尿タンパクと無菌性の尿沈渣をともなった急性な腎臓障害として発現するそうです。腎生検の典型的な所見は、急性かつ/または慢性の尿細管損傷(ただし診断のタイミングに左右される)、遠位尿細管と集合管へのリン酸カルシウム結晶の沈着で、それ以外のパターンの組織学的損傷はみられないそうです。 FDAは次のような注意を促しています。 ◆処置の手順や気を付けるべき兆候について易しく書かれた手引書を患者に渡す ◆服用に際しては、充分な清澄液を摂取するように指導する ◆過剰量を服用しないよう注意する ◆18歳以下の人には投与しない ◆55歳以上の人には注意して投与する ◆脱水状態、腎疾患、腸内容物排出遅延、急性腸炎などのある人には注意して使用する 経口リン酸ナトリウム製剤使用者における急性腎症が現在までにFDAに20例報告されているそうです。急性腎症の発現時期は、経口リン酸ナトリウム製剤使用の数時間後から21日後までに分布しているそうです。20例のうち3例で腎生検採取が実施され、いずれも急性リン酸腎症という診断だったそうです。20例のうち11例はアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断剤(ARBs)を、6例は利尿剤を、4例は非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)を、1例は造影剤を併用していたそうです。20例のうち5例は生命に危険がある状態、10人は入院が必要な状態だったそうです。20例のうち4例は期間不明の透析が必要となり、1例は合併症の肺炎で死亡したそうです。20例のうち9例では2から4週間以上継続した腎機能不全がみられたそうです。報告例のうちの幾つかは、服用時に脱水の状態であったか、あるいは、服用したあとに充分な水分を摂取していなかったという可能性もあるそうです。 レトロスペクティブ研究(=過去の医療記録を調べて結果を出すタイプの研究法)の結果が幾つか論文として発表されているそうです。経口リン酸ナトリウム製剤とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断剤(ARBs)併用者において腎症のリスクが高く、更に、女性、心疾患患者、利尿剤併用者では経口リン酸ナトリウム製剤による急性腎症の発症のリスクが高いと報告する論文があるそうです。また、ポリエチレングリコールを主成分とする経口腸管洗浄剤使用者よりもリン酸ナトリウムを主成分とする経口腸管洗浄剤使用者は急性腎症を起こすリスクが高いと報告する論文がある一方、リスクに違いは無いと報告する論文もあるそうです。いずれにせよ、大規模で精密なプロスペクティブ研究(=参加者を新規に募集して事前に立てた計画のもとに実施するタイプの研究法)を実施する必要があるそうです。 リン酸ナトリウム系経口腸管洗浄剤の使用の際には副作用として急性リン酸腎症が起きないように注意事項をよく守るべきだと思います。リスクを高める要因の1つとして「活動期の大腸炎」があげられていますから、充分に注意したほうがいいと思います。 ところで、先ごろ中国で、乳児用粉ミルクに大量にメラミンという化学物質が混入していたために多くの乳児が重い腎臓障害を起こしたという事件がありましたが、あれはメラミン合成の際に生じる不純物とメラミンが結合して非常に融けにくい結晶を腎臓内で作り、それが腎臓組織に沈着して起こったものだそうです。難溶性の物質を形成して腎臓に沈着する可能性がある化学物質には充分に気をつけなければならないようです。 【情報源】 ◆FDA: Information for Healthcare Professionals Oral Sodium Phosphate (OSP) Products for Bowel Cleansing (marketed as Visicol and OsmoPrep, and oral sodium phosphate products available without a prescription) (英語) (↑このページに参考文献として論文が5つ程あげられています) ◆ヘルスデージャパン - FDAが経口腸管洗浄薬に腎障害リスクの警告表示を要請(2008.12.18掲載) (日本語) ◆経口腸管洗浄剤ビジクリアの添付文書 (日本語)
by pascor
| 2008-12-26 21:18
| 両疾患共通
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