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癌に対する免疫治療を研究しているワシントン大学を中心とした研究グループが、遺伝子的に強力な白血球を持つマウスを作ろうとして特定の遺伝子に欠陥を持ったマウス同士を掛け合わせてみたところ、劇症の潰瘍性大腸炎と同じような腸炎を生れて間もなく非常に高い確率で発症するマウスが偶然に出来たそうです。医学研究の世界では遺伝子を操作することによって様々な特徴を持った実験用動物が作られ実験に使われているのですが、今まで劇症の腸炎発症マウスは存在しなかったそうです。 そして、この劇症潰瘍性大腸炎自然発症マウスに抗菌剤であるシプロフロキサシンとメトロニダゾールを同時に3週間投与したところ劇症の潰瘍性大腸炎が治ゆしてしまったそうです。人間の潰瘍性大腸炎ではシプロフロキサシンもメトロニダゾールも単独では効果が無いとされています。それを同時に投与して劇的な効果があったということです。抗菌剤3剤を同時に投与することによって潰瘍性大腸炎を緩解させるATM療法を思い起こさせます。 この論文の研究者達は、単独では効果が無いとされる抗菌剤を複数同時に投与することによって腸炎を劇的に改善出来る可能性を新たに発見したというようなことを言っているのですが、どうやら、日本の大草氏らが開発した潰瘍性大腸炎に対する抗菌剤多剤併用療法(ATM療法)の存在を知らないようです。それにしても、動物実験でも抗菌剤を複数投与することによって腸炎を緩解させることが出来ることが認められた例として参考になると思います。 今回の研究グループは、このマウスにシプロフロキサシンとメトロニダゾールを与えて治療したあとに、腸から除菌されてしまった菌を再び1つ1つ植え付けてみることによって潰瘍性大腸炎発症に関わっている腸内細菌を特定するという研究を実施する計画だそうです。この実験は倫理的観点から人間の患者では不可能ですので、期待したいと思います。 【研究者達の出した論文】 An Antibiotic-Responsive Mouse Model of Fulminant Ulcerative Colitis.Kang SS, Bloom SM, Norian LA, Geske MJ, Flavell RA, Stappenbeck TS, Allen PM. PLoS Med. 2008 Mar 4;5(3):e41 [Epub ahead of print] [無料全文.html] ▽▽▽▽▽▽ ここから論文の概要 ▽▽▽▽▽▽ 今までは重症のIBD発症マウスは存在しなかった。我々は免疫抑制に関連するTGFbetaRIIとIL-10R2の遺伝子を両方働かなくすることによって劇症潰瘍性大腸炎発症マウスを作成することに成功した。このマウスにおいては炎症誘起性サイトカインの分泌が増え、T細胞の活動が活発になることによって腸に炎症が起こるものと推測される。このマウスにIFNgammaやTNFalphaの働きを抑える薬剤を投与すると症状が著しく改善したことから、ヒトの潰瘍性大腸炎に近いモデルであることがわかった。TGFbeta信号伝達系統とIL-10信号伝達系統は協調して微生物依存性炎症誘起性物質であるIFNgammaやTNFalphaなどの産生を阻害して炎症反応を制御しており、この両系統に共に欠陥があるために潰瘍性大腸炎がこのマウスに発症しているという可能性がある。 この劇症型炎症性腸疾患マウスに、好気性菌にも嫌気性菌にも広く効果がある抗菌剤であるciprofloxacinとmetronidazoleを投与してみた。 ciprofloxacin 0.66mg/ml水溶液 metronidazole 2.5mg/ml水溶液 を同時にマウスに飲ませたところ、全例において腸炎が完全に治癒してしまった。単独では潰瘍性大腸炎に効果が無いとされる抗菌剤でも複数併用することによって効果が見られる可能性がある。 △△△△△△ ここまで論文の概要 △△△△△△ 【そのほかに参考とした記事】 研究がおこなわれたワシントン大学のプレスリリース: Scientists successfully treat new mouse model of inflammatory bowel disease
by pascor
| 2008-03-17 23:03
| 潰瘍性大腸炎
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