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クローン病と潰瘍性大腸炎に対する治療薬として日本でも広く用いられているメサラジン(5ASA: 5-アミノサリチル酸)にクローン病の発症に関わっているのではないかとされるMAP菌に対する増殖抑制作用が試験管での実験で見られたことを報告する論文が出たようです。メサラジンは抗炎症剤(=炎症を抑える薬)として働いてクローン病の症状を改善するのだとされていますが、今回の実験によって新しい仮説が加わることになるかも知れません。試験管での実験結果ですが興味深いです。 以前に述べましたが、クローン病の発症に関わっているのではないかと世界中の研究者が疑っている細菌、 Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis (マイコバクテリウム・アヴィウム・亜種パラチュバキュローシス。略して「MAP」) は牛などの家畜にヨーネ病と呼ばれる人間のクローン病とそっくりの病気を起こすことが知られている菌です。反芻動物にだけではなく霊長類にも感染することが知られている菌です。 メサラジン(5ASA)は日本ではペンタサという商品名で知られる基本的な治療薬です。実は、何故5ASAがクローン病や潰瘍性大腸炎の炎症を抑えるのかということについてははっきりとはしていないのですが、いくつか仮説がありまして、 ◇炎症誘起性プロスタグランジンの生成阻害 ◇活性酸素中和作用 ◇鉄イオンの活性封鎖による活性酸素発生の阻害 などが現在言われているようです。 免疫抑制剤である6メルカプトプリン(6-mercaptopurine)とメトトレキセート(methotrexate)にMAP菌に対する増殖抑制作用がありそうなことが実験で判ったことを以前にこのブログに書きましたが、今回、5ASAにも同じような作用がありそうなことがほぼ同じ顔ぶれの研究者達の実験で判ったようです。クローン病の発症または増悪にはMAP菌が関わっているという仮説に多少補強材料が加わることになるのかもしれません。 5ASA系化合物であるサラゾスルファピリジン(salazosulfapyridine:SASP)はもともと慢性関節リウマチの治療薬として用いられていたのですが、リウマチと潰瘍性大腸炎の両方を患っている患者がサラゾスルファピリジンを飲んだところリウマチにだけでなく潰瘍性大腸炎にも改善効果が見られたという報告が1942年にあり、それ以来炎症性腸疾患(IBD)の治療薬として用いられるようになったそうです。 実は、更にそれ以前、サラゾスルファピリジンは抗菌剤として知られており、もともとは「サルファ系抗菌剤」に属する薬剤の一つでした。殺菌性抗菌剤のペニシリンよりも7年ほど早い1935年に開発されましたが、ペニシリンの登場ですぐに日陰に追いやられたようです。 細菌は生きていくために必要な葉酸を自分で合成しなければならないのですが、サラゾスルファピリジンはその葉酸の合成を阻害することによって菌の活動を止める効果を発揮するそうです。(ちなみに、サラゾスルファピリジンを服用している人は葉酸が不足しないように気をつけたほうがいいそうです。)サラゾスルファピリジンは現在は効かない菌が多くなってしまったので抗菌剤としては人間に対してあまり投与されることはないそうです。しかし、畜産業では結構使われているようです。 サラゾスルファピリジンの分子は5ASAという分子とスルファピリジン(SP)という分子を結合した形の分子で、腸内細菌によって5ASAとSPの2つに分割されることによって始めて薬効が発揮されるのだとされています。サラゾスルファピリジンの副作用はスルファピリジンのほうが主な原因であることが判ったので、そこで5ASAだけを治療薬として使おうとしたのですが、そのまま口から飲んだのでは胃や小腸の前半で吸収されてしまってもっと下流のほうまで届かないので、直腸にいたるまでまんべんなく5ASAが行き渡るように5ASA粉末に特殊なコーティングを施したのがペンタサ(商品名)です。海外では違った種類のコーティングによる5ASA剤もあります。 ◇SASP(5ASA-SP) ◇SP ◇5ASA ◇5ASAとSPの混合 をそれぞれ作用させてみたところ、「5ASA」と「5ASAとSPの混合」に増殖の抑制効果が見られたが「SP」と「SASP(5ASA-SP)」には抑制効果は見られなかったそうです。SASPは腸の中で腸内細菌によって5ASAとSPに分解されてはじめて有効性を発揮することがわかっていますが、今回の実験の結果はその事実とも矛盾しないことになります。 今回の実験で5ASA系治療薬の作用のメカニズム仮説に「5ASAによるMAP菌の増殖抑制効果」が加わることになるのかもしれません。 また、5ASA剤は潰瘍性大腸炎に対しても治療薬として有効なのですが、発症に関わっているのではないかとされているフソバクテリウム・バリウムに対してこれらの薬剤が増殖抑制効果を持っているのかどうかについても試験がおこなわれることを期待します。 【実験結果の報告論文】 On the action of 5-amino-salicylic acid and sulfapyridine on M. avium including subspecies paratuberculosis. Greenstein RJ, Su L, Shahidi A, Brown ST. PLoS ONE. 2007 Jun 13;2(6):e516. [無料全文.html] (英語) 豆知識
by pascor
| 2007-11-04 21:45
| クローン病
|
Comments(4)
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monaka-deutsch at 2007-11-05 23:13
草はみさん
こんにちは。サラゾは今、アザチオプリンを飲んでいる為にお休み中ですが、素朴な疑問が浮かびました。葉酸が不足しないように気をつけるというのは具体的にどうしたらよいのでしょうか。そもそも葉酸とはなんぞや。Wikipediaではビタミンが挙げられているけれど。何を食べたらよいものか。ベジマイト(トーストに塗るめちゃまずいペースト)とかかなあ。
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草はみ
at 2007-11-07 00:17
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monakaさん
葉酸が不足しないようにする方法は 「葉酸をようさん摂ること」 です。 すみません、大阪の人間なもので (^^ゞ でも、本当の話です。そうするしかないです。サラゾスルファピリジンは葉酸の吸収を低下させるそうです。 「葉酸の日」というのがあって4月3日だそうです。 本当の話です。 ネット上を「葉酸」のキーワードで検索するとたくさん情報が出てきます。葉酸についての一番のキーポイントは、胎児の成長に特に重要なので妊娠をする可能性のある女性は絶対に葉酸を不足させてはいけないということのようです。妊娠4、5週目ころは特に不足させてはいけないようです。まだ妊娠には気が付かない可能性がある時期だと思いますので、普段からの注意が必要だと思います。
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monaka-deutsch at 2007-11-07 02:16
草はみさん
4月3日は養蚕、じゃなくて葉酸の日なんですね。妊娠をする可能性のある女性じゃないけど、せっせせっせ、ようさん摂ろうと思います。大阪語はいいですねえ~。なんかほのぼのします。
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草はみ
at 2007-11-07 21:22
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monakaさん
いや、その、コウノトリはかなり気まぐれですから。 「ようさん」は、お年よりなんかは「ぎょうさん」と言ったりします。若い人は「めっちゃ」を使う人が多いようです。
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