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クローン病に合併するろう孔に対する治療法としてインフリキシマブ(商品名:レミケード)の点滴投与が有効であり、3回の投与が保険適応となっていますが、静脈からの全身的投与なので感染症(結核、肺炎など)の発症、インフリキシマブに対する急性過敏症、遅発性過敏症、肝機能障害、悪性リンパ腫等の癌発症確率上昇の可能性などの重篤な副作用が問題となります。 そこで、肛門の周囲にできたろう孔に対する治療法として、インフリキシマブをろう孔の中、および、ろう孔の開口部の周囲のみに局所的に注射するという方法の臨床試験がおこなわれ、少ない人数で、また、試験参加者の選定基準が狭い試験ながら、高い有効率を達成しつつも副作用は全くみられなかったという結果が得られたようです。 8/11人(72.7%)に有効で、そのうち 4/11人(36.4%)が緩解。 3/11人(27.2%)が無効だったそうです。 クローン病患者によくみられる合併症である肛門周囲のろう孔は、治療がうまくいかないことが多く、QOLをひどく害する場合には永久人工肛門(ストーマ)を造設しなければならないなど、対処がたいへんであることが多いようです。 そこで、点滴による全身的投与でではなく、ろう孔の開口部から注入したり、ろう孔の開口部の周囲に注射したりという局所的投与でもってインフリキシマブを使用すれば高い有効率を得ながらも副作用を避けることができるのではないかということで、イタリアで小規模な臨床試験がおこなわれたようです。 ◆Treatment of perianal fistulas in Crohn's disease by local injection of antibody to TNF-alpha accounts for a favourable clinical response in selected cases: a pilot study. Asteria CR, Ficari F, Bagnoli S, Milla M, Tonelli F. Scand J Gastroenterol. 2006 Sep;41(9):1064-72. [abstract in English] 題の日本語訳: 『クローン病の肛門周囲ろう孔は、選ばれた例において、抗TNFアルファ抗体の局所注入によって良好な臨床的反応をみせる。:ある予備的治験』 肛門周囲ろう孔のあるクローン病患者11人が治験に参加。 参加者の選定条件は、 ◇スタンダードな治療(5ASA剤、抗生物質、免疫抑制剤、ステロイド剤)によっても症状が改善しなかった患者。 注:スタンダードな治療によって治癒するならば、わざわざインフリキシマブを使用するまでもないという考え。 ◇膿瘍(=のうよう。体内にできた膿(うみ)の袋)がある患者は除外。 注:インフリキシマブは感染症のある患者には慎重投与となっている。 ◇複数の管からなる「複雑ろう孔」である例は除外。 注:単純ろう孔と比べて複雑ろう孔は治癒しにくいことが知られている。 ◇直腸に中等症から重症の炎症がある患者は除外。 注:直腸に炎症があるとろう孔は治癒しにくいことが知られている。 ◇以前にインフリキシマブの投与をうけたことがある患者は除外。 ◇検査によって結核の所見が確認された患者は除外。 注:インフリキシマブ投与によって結核が発症または悪化する可能性がある。 だったようです。単純ろう孔の患者に限っているなど、選定基準がかなり狭い治験だったようです。 治験参加者に対する治療の内容は、 1)シートン(seton)をろう孔に通している場合はシートンをはずす。 2)麻酔剤(1%リドカイン5mlと8.4%重炭酸溶液3mlの混合)を注射。 3)インフリキシマブ20mgを10ml生理食塩水に溶解したものをろう孔内に注入し、また、ろう孔の開口部の周囲に注射。 というもので、 (2)と(3)を4週毎に、最長16週(最多5回)までおこなった。ただし、完全に緩解しその緩解が維持されれば、その時点で終了とした。3回投与しても反応が見られない場合は、その時点で無効例とし、治験を終了した。 有効は 「ろう孔からの排膿の量の50%以上の減少」 緩解は 「指で軽く圧迫してもろう孔から排膿が見られなくなり、その状態が4週間以上維持されている」 と定義。 結果は、 8/11人(72.7%)に有効で、そのうち 4/11人(36.4%)が緩解。 3/11人(27.2%)が無効 だったそうです。 緩解した4人のうち2人はMRIや超音波画像診断(エコー)によってろう孔の完全消失が確認されたそうです。 その後、治験参加者を最短7ヵ月間、最長18ヵ月間、平均10.5ヵ月間追跡したところ、 6/11人(54.5%)が有効で、 4/11人(36.4%)が緩解 だったそうです。 参加者人数が少なく、偽薬対照群や点滴による投与群を設定して比較していない治験ではあったようですが、副作用が全くみられなかったというところが注目に値します。更なる治験の実施が望まれます。 ほかにも肛門周囲ろう孔に対するインフリキシマブ注入法の治験の結果を報告する論文があるようですが、ろう孔が複雑化する前の単純ろう孔の段階で処置をすることがQOLの向上につながるようです。 【参考文献】 ◆Local injection of Infliximab for the treatment of perianal Crohn's disease. Poggioli G, Laureti S, Pierangeli F, Rizzello F, Ugolini F, Gionchetti P, Campieri M. Dis Colon Rectum. 2005 Apr;48(4):768-74. [abstract in English] ⇒15人が参加したクローン病の肛門周囲ろう孔に対するこの治験では単純ろう孔と複雑ろう孔を両方とも対象としている。インフリキシマブ注入と同時に外科的処置を平行しておこなっている。 ◆Infliximab for the treatment of fistulas in patients with Crohn's disease. Present DH, Rutgeerts P, Targan S, Hanauer SB, Mayer L, van Hogezand RA, Podolsky DK, Sands BE, Braakman T, DeWoody KL, Schaible TF, van Deventer SJ. N Engl J Med. 1999 May 6;340(18):1398-405. [abstract in English] ⇒94人が参加したクローン病のろう孔に対するこの偽薬対照治験では、インフリキシマブを点滴で投与している。
by pascor
| 2007-01-17 23:15
| クローン病
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Comments(2)
私はリウマチで現在、レミケードを使っています。
最近、レミケードが効かなくなってきました。 たぶん、増量かエンブレルになると思います。それもダメだったら大学病院まで来てね、と言われました。 それって承認前の薬ということかも… それでアダリムマブを検索したら、このサイトが出てきました。 他にも、参考になることがあり、草はみさん、有り難うございました。
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草はみ
at 2007-01-21 14:28
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ななごさん、こんにちは。
情報がIBD患者の方にだけでなく、広くそのほかの疾患の患者の方に対してもお役に立って、うれしいです。 (^^) アダリムマブ(商品名:ヒューミラ)は、現在、日本でも関節リウマチ、クローン病、尋常性乾癬に対して治験が進んでいるようです。 レミケードが効かなくなってきた場合、それが「抗レミケード抗体の出現」が原因であるならば、増量をしてもあまり意味がないかもしれませんね。レミケード分子はたんぱく質で出来ているのですが、そのたんぱく質の設計図の25%がネズミの遺伝子情報によって出来ているので、人間の免疫機構が「異物が体内に入ってきたぞ」ということで、レミケードに対して攻撃をして無効化してしまうことがあるようです。 ちなみに、アダリムマブは100%人間の設計図によって出来た分子なのだそうで、無効化抗体の出現は少ないのではないかとされているみたいです。 関節リウマチも潰瘍性大腸炎も長くつきあっていかなければならない病気ですが、医学は少しずつ進んでいっているようですので、お互い負けずにやっていきましょう。 (^^)
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