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この記事は
『新薬情報_日本国内版_2014年秋_その1』 の続きです。 -------------------- ※ご注意※ ◇この記事は、未だ情報が乏しい段階で、治験状況の速報として書かれたものですので、各治療薬の特徴などについての詳細は、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)に詳しい医師、薬剤師などに確実なところをご確認になってください。 ◇この記事は、これから出てくる予定の炎症性腸疾患(IBD)関連治療薬の特徴と、現在の開発段階について皆さんに情報提供する趣旨のものであり、皆さんに治験への参加を呼びかけたり勧めたりすることが目的のものではありません。治験への参加につきましては主治医、薬剤師、治験実施者などと十分に相談をされる事をお勧めいたします。 ◇治験中または申請中の新薬や効能追加は、全てが最終的に市販化にこぎつける事ができるわけではなく、有効性が乏しかったり、副作用が問題となったりして開発が中断されるものも残念ながらたくさん存在します。 ◇できるだけ広い範囲を調査しましたが、この記事は現在治験中または申請中のIBD関連治療薬を全て網羅できたものではありません。 ◇新薬の紹介順番は、製薬会社のあいうえお順です。 -------------------- 治験の段階について 厚生労働省の認可を目指しての臨床試験(治験)には4つの段階がありまして、基本的に以下のとおりです。 ◇第1相(フェイズⅠ)は、少数の健康志願者を対象に、安全性のテストと、体内での薬剤の移動のデータ取りを行う。 ◇第2相(フェイズⅡ)は、同意を得た少数の患者を対象に、有効で安全な投薬量、投薬期間、投薬方法などを決定する。 ◇第3相(フェイズⅢ)は、同意を得た多数の患者を対象に、「二重しゃへい試験」などによるより厳密な形式でもって、既存薬などと比較しての有効性および安全性をチェックする。一般的にはこの段階が終了した時点で、国へ認可を求める申請がされる。 ◇第4相(フェイズⅣ)は、全ての薬に対して必須ではないが、認可された薬について、市販後も何年間か副作用発現などの情報を調査し、まとめる。その結果は厚生労働省に報告される。 -------------------- ベドリズマブ(エンティビオ) 開発コード: MLN0002 薬剤名: ベドリズマブ(vedolizumab) 商標名: エンティビオ(Entyvio) 治験の段階: 潰瘍性大腸炎とクローン病に対して第3相 現在の開発者: 武田薬品工業 投与形態: 静脈より点滴で 治療薬としての系統: 抗α4β7インテグリンヒト化モノクローナルIGg1抗体製剤 2008年に武田薬品工業の100%子会社となったMillennium Pharmaceuticals, Inc.(本社:USAマサチューセッツ州ケンブリッジ)が研究、開発した治療薬。MEDI-7183と同じくα4β7インテグリンを阻害の標的としている。欧米では潰瘍性大腸炎とクローン病に対する治療薬として既に認可されている。 【主な情報源】 ◇研究開発パイプライン 研究開発活動 | 武田薬品工業株式会社 http://www.takeda.co.jp/research/pipeline/ ◇ENTYVIO (vedolizumab) - Now Approved by the FDA https://www.entyvio.com/ ◇潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「Entyvio®」(一般名:vedolizumab)の欧州における販売許可取得について 武田薬品工業株式会社 2014年05月28日 https://www.takeda.co.jp/news/2014/20140528_6589.html --------------------- インフリキシマブ(レミケード)の効能追加 治験の段階: 小児潰瘍性大腸炎と小児クローン病に対して第3相 現在の開発者: 田辺三菱製薬 投与形態: 静脈より点滴で 治療薬としての系統: 抗ヒトTNFアルファモノクローナルキメラ抗体製剤 【主な情報源】 ◇研究開発パイプライン|研究開発情報|田辺三菱製薬株式会社 (平成27年3月期 第1四半期決算短信より)2014年7月29日発表 http://www.mt-pharma.co.jp/shared/show.php?url=../develop/pipeline/index.html -------------------- トファシチニブ(ゼルヤンツ) 開発コード: CP-690,550 薬剤名: トファシチニブ(tofacitinib) 商標名: ゼルヤンツ(Xeljanz)、Jakvinusなど 治験の段階: 潰瘍性大腸炎とクローン病に対して第2、3相 現在の開発者: ファイザー株式会社 投与形態: 経口(=口から飲む) 治療薬としての系統: JAK阻害小分子 白血球の細胞内において炎症促進命令の伝達に関わっているJAK(ヤーヌスキナーゼ)の活動を阻害するメカニズムの治療薬。本薬は分子が比較的小さいため、経口剤として投与できるという長所を持つ。日本では、「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」に対して既に治療薬としての認可を得ている。開発したのはファイザー社(Pfizer Inc.)(本社:ニューヨーク市)で、日本では武田薬品工業が販売を受け持っている。本薬は、薬剤名の末尾に「-tinib」という共通の綴りを持つチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor)のカテゴリーに属する。JAKは分子内のATP(アデノシン三リン酸)結合部位にATPが結合してJAK本体がリン酸化される事によって活性化するが、本薬はその結合を阻害する。本薬の分子はADP(アデノシン二リン酸)分子におおまかな分子骨格が似ている。 参考:ADP(アデノシン二リン酸)の構造式 【主な情報源】 ◇wikipedia日本語版の項目「トファシチニブ」より化学構造式図を引用 http://ja.wikipedia.org/wiki/トファシチニブ ◇関節リウマチ | ゼルヤンツ総合サイト http://www.xeljanz.jp/ ◇Dr. Anibal De León Sosa - Tofacitinib - YouTube http://www.youtube.com/watch?v=1sEkjoygVYI -------------------- PF-00547659 治験の段階: クローン病に対して第2、3相 現在の開発者: ファイザー株式会社 治療薬としての系統: 完全ヒト化抗MAdCAMモノクローナルIgG2kappa抗体製剤 腸管組織が炎症誘起性の免疫細胞を腸粘膜へ引っ張り込む時に使うMAdCAMという分子の働きを阻害する事によって炎症を抑制するという戦略の薬剤。腸粘膜へ入って炎症反応を起こそうと積極的な状態になっている免疫細胞の表面に出ているα4β7インテグリンという腕を、腸管壁に張り巡らされている微小血管の血管内皮細胞がMAdCAMという腕を出してつかみ、引き止める。捕まえられた免疫細胞は、血管壁をすり抜けて、腸粘膜へと入る。IgG抗体のなかでも2型であるIgG2は、胎盤通過の度合いが低く、Fc部の食細胞Fcレセプターとの結合能も弱いとされる。 【主な情報源】 ◇クローン病患者を対象としたPF-00547659の長期安全性を評価する多施設共同非盲検長期継続投与試験(OPERA II)(治験実施計画書番号:A7281007) JapicCTI-122026 http://www.clinicaltrials.jp/user/cteDetail.jsp?clinicalTrialId=10185 ◇Pharmacological characterization of PF-00547659, an anti-human MAdCAM monoclonal antibody. Pullen N1, Molloy E, Carter D, Syntin P, Clemo F, Finco-Kent D, Reagan W, Zhao S, Kawabata T, Sreckovic S. Br J Pharmacol. 2009 May;157(2):281-93. doi: 10.1111/j.1476-5381.2009.00137.x. Epub 2009 Apr 2. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2697799/ ◇Janeway免疫生物学(原書第7版) page 11/40(サンプルページ)|南江堂 http://www.nankodo.co.jp/wasyo/actibook/2253191/_SWF_Window.html?pagecode=10 ◇Novel Agents for the Treatment of Crohn's Disease - YouTube Mechanisms in Medicine http://www.youtube.com/watch?v=B6NF3FMFHT8 -------------------- MD-0901 商標名: Lialda(海外) 治験の段階: 潰瘍性大腸炎に対して第3相 現在の開発者: 持田製薬 投与形態: 経口(=口から飲む) 治療薬としての系統: 経口腸溶型5アミノサリチル酸製剤 海外ではLialda、Mesavant、Mesavancolなどの商標名で既に治療薬として認可され販売されている。持田製薬がシャイアー社(Shire Plc)(本社:アイルランド)から日本での独占的開発・販売権を購入。有効成分はペンタサやアサコールと同じく5アミノサリチル酸(メサラジン)で、特殊コーティング技術により1日1回だけの服用で効果を発揮する。1日に数回服用の同成分他剤と比べて飲み忘れが少なくなり、有効性が高まる事が期待される。本薬は、親油性素材、親水性素材、両親性素材、それぞれで以って5アミノサリチル酸をコーティングした物を混合することによって、消化管の目的とする部位に確実に目的通りに5アミノサリチル酸を到達させる設計となっている。 【主な情報源】 ◇MD-0901活動期試験-軽症~中等症の活動期の潰瘍性大腸炎を対象とした第3相試験- JapicCTI-101380 一般財団法人日本医薬情報センター 臨床試験情報 http://www.clinicaltrials.jp/user/search/directCteDetail.jsp?clinicalTrialId=4567 ◇平成21年3月期 決算説明会 – 持田製薬 http://www.mochida.co.jp/ir/pdf/090521ir.pdf ◇潰瘍性大腸炎治療剤「LIALDA®」の開発・販売権の取得について 平成21年1月16日 持田製薬ニュースリリース http://www.mochida.co.jp/news/2008/0116.html ◇新薬Mesavanceの開発状況 : 草はみの潰瘍性大腸炎・クローン病最新情報 http://ibdhotnews.exblog.jp/3164344 --------------------- ゴリムマブ(シンポニー) 開発コード: CNTO148 薬剤名: ゴリムマブ(golimumab) 商標名: シンポニー(Simponi) 治験の段階: 潰瘍性大腸炎に対して第3相 現在の開発者: ヤンセンファーマと田辺三菱製薬による共同開発 投与形態: 皮下注射 治療薬としての系統: 抗ヒトTNFα完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体製剤 関節リウマチの治療薬としての認可を日本で既に得ている。海外では潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎などに対する治療薬として既に認可されている。本薬のターゲットは、インフリキシマブ(レミケード)やアダリムマブ(ヒュミラ)と同じく、TNFα分子。TNFαは体内で炎症誘起の命令を伝達する役割をする細胞間物質。同じく皮下注射であるアダリムマブと比べて、ゴリムマブは皮下注射時の痛みや不快感が小さいとされる。 【主な情報源】 ◇関節リウマチ治療薬情報サイト|シンポニー.jp http://www.simponi.jp/ ◇シンポニー®皮下注50mgシリンジのインタビューフォーム ◇TNF阻害関節リウマチ治療薬 ゴリムマブ(遺伝子組換え) |(2) ラジオ日経<スズケンDIアワー> 平成23年10月27日放送内容より http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/111027html/index2.html ◇注射時の痛みや不快感、ゴリムマブは他の皮下注射の抗TNF薬より少ない 2012/11/19:日経メディカル http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/acr2012/201211/527848.html -------------------- ウステキヌマブ(ステラーラ) 開発コード: CNTO1275 薬剤名: ウステキヌマブ(ustekinumab) 商標名: ステラーラ(Stelara) 治験の段階: クローン病に対して第3相 現在の開発者: ヤンセンファーマ 投与形態: 皮下注射 治療薬としての系統: 抗ヒトIL-12/23p40ヒト型IgG1kappaモノクローナル抗体製剤 乾癬の治療薬としての認可を日本で既に得ている。本薬は、IL-12およびIL-23に共通のサブユニットであるIL-12/23p40に結合して活動を阻害する。CD4陽性ナイーブT細胞の1型ヘルパーT細胞(Th1)への分化にはIL-12が関与し、17型ヘルパーT細胞(Th17)への分化にはIL-23が関与しているとされるが、この両方を同時に阻害する事で炎症を抑制する戦略の薬剤。本薬は、レセプターと既に結合した状態のIL-12およびIL-23には結合できないので、補体活性化や抗体媒介性細胞傷害によるレセプター発現細胞への傷害は起こらないのではないかとされている。 【主な情報源】 ◇乾癬治療薬「ステラーラ®」の情報提供サイト|ステラーラ.jp http://www.stelara.jp/ ◇ステラーラ®皮下注45mgシリンジのインタビューフォーム ◇乾癬治療薬 ウステキヌマブ(遺伝子組換え) |(1) ラジオ日経<スズケンDIアワー> 平成23年5月12日放送内容より http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/110512html/index.html ◇CNTO1275 PRODUCT INFORMATION – Janssen https://www.janssen.com.au/files/Products/Stelara_PI.pdf -------------------- 参考としたもの ◇開発中の新薬|新薬・治験情報|日本製薬工業協会 http://www.jpma.or.jp/medicine/shinyaku/development/index.html ◇各製薬会社のホームページ ◇各薬剤の添付文書、インタビューフォーム ◇その他
by pascor
| 2014-11-11 21:42
| 新薬開発状況
|
Comments(2)
Commented
by
えざっちょ
at 2014-11-17 12:56
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草はみさん
こんにちわ。新薬情報のアップ、非常に参考になりました。ありがとうございます。 ところで、先日、ある製薬会社のCMで、「新薬が生まれる確率は0.03%」って言ってました。今回アップして頂いたUC新薬情報に期待膨らむ一方で、この中でどのくらいが患者のものに届くのかな、と疑問も感じます。 全てが効果を発揮し、承認されて選択肢が増えるといいですね。 以上
Commented
by
草はみ
at 2014-11-18 22:27
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えざっちょさん、こんばんは。この記事がえざっちょさんの参考となってうれしいです。
(^^) 「新薬の成功確率は約30,000分の1■革新的な新薬は、最新の研究成果をもとに開発されます。基礎研究から承認・発売までには、9~17年の年月と多額の研究開発費が必要です。しかも、くすりの候補として研究を始めた化合物が新薬として世に出る成功確率は3万591分の1という難しさです。■出典:製薬協DATA BOOK 2012」 ↑多分これの事ではないでしょうか。 動物実験の段階でかなりの物がふるい落とされます。人間を対照とした治験の第1フェーズまで進んだ化合物が認可を得て最終的に処方薬となる確率は4分の1くらいあるようです。
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