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(このブログの記事『二千年前の古代ローマで青黛(インジゴ)が潰瘍の治療に』の補足です) C. Plinii Secundi - Naturalis Historiae - 35.20(35.27) Ab hoc maxime auctoritas Indico. ex India venit harundinum spumae adhaerescente limo. cum cernatur, nigrum, at in diluendo mixturam purpurae caeruleique mirabilem reddit. alterum genus eius est in purpurariis officinis innatans cortinis, et est purpurae spuma. qui adulterant, vero Indico tingunt stercora columbina aut cretam Selinusiam vel anulariam vitro inficiunt. probatur carbone; reddit enim quod sincerum est flammam excellentis purpurae et, dum fumat, odorem maris. ob id quidam e scopulis id colligi putant. pretium Indico XX in libras. in medicina Indicum rigores et impetus sedat siccatque ulcera. ◆C. Plinii Secundi - Naturalis Historiae - 35.20(35.27) 【直訳】『ガーイウス・プリニウス2世の 自然の探求』 35巻20章(35巻27章) 【意訳】大プリニウス 『博物誌』 35巻20章(35巻27章) ラテン語の単語historiaは古代ギリシャ語の動詞historein「物事を探求する、研究する、調べる」から来ていまして、よって題名を直訳しますと、『自然の探求』となります。history「歴史」という意味はあとから出て来たもののようで、もとは広く「知的探求」を指す言葉だったようです。 甥(おい)も有名人で著書を残しておりますので、甥のほうは「小プリニウス」、伯父(おじ)のほうは「大プリニウス」として区別して呼ばれる事があるようです。 写本によって章の割り振りに違いがあるようです。 ◆Ab hoc maxima auctoritas Indico. 【直訳】ここから、最高の重要性がインジゴに(与えられる)。 この文にはdare「与える」の直説法・受動相・現在・3人称・単数であるdatur「与えられる」が省略されていると考えました。 Indico はindicum, -i, n,「インジゴ染料」の単数・与格形と解釈しました。形容詞Indicus, -a, -umは「インドの」という意味です。当時インジゴ染料はインドから輸入されていたようです。 【意訳】次に取りあげるのは、最も重要な染料であるインジゴである。 ◆ex India venit harundinum spumae adhaerescente limo. 【直訳】葦製品の泡に付着している泥であり、インドから輸入している。 ラテン語著作物の原文には母音が長音か短音かという情報は書かれておらず、読み手が文脈等から判断するのですが、venitに関しまして、eが長音の場合は完了過去形、eが短音の場合は現在形となります。完了過去形の場合は「・・・から伝来した」という解釈になり、現在形の場合は「・・・から輸入している」という解釈になると思います。プリニウスが書いた当時はどうやらインドから輸入していたようですので、とりあえずeは短音と解釈しました。 harundinum spumae adhaerescente limoの部分は付帯状況を示す独立奪格構文(ablativus absolutus)であると考えました。 【意訳】インドから輸入している物で、葦製のかき混ぜ棒でかき混ぜた時に生じる泡に付着する泥状の物である。 この意訳は沈殿藍の製造法を知ったうえで作った訳です。 YouTube - 琉球藍 -栽培から製造まで- 2分35秒あたりから、かき混ぜの作業をしている場面が映ります。現代文明の利器であるモーターを使用していますが、昔は葦を束ねたホウキのようなものでかき混ぜて酸素を送り込んだものと思われます。harundo, -dinis, f, 「葦。葦で作られた物。かき混ぜ棒」の複数・属格形であるharundiumが用いられていますので、複数の葦でもって作られたようなかき混ぜ棒の事を指していると判断しました。 ◆cum cernatur, nigrum, at in diluendo mixturam purpurae caeruleique mirabilem reddit. 【直訳】それがふるいにかけられる時、黒い、しかし溶解する事において紫と暗青色の素晴らしい混合した物をもたらす。 ここのcumは前置詞「・・・と一緒に」(英with、仏avec、独mit、伊con、西con、蘭met、葡comなど)という意味ではなく、もう一つの意味である接続詞「・・・の時」(英when、仏ou、独wann、伊quando、西cuando、蘭wanneer、葡quandoなど)という意味です。ラテン語学習における重要ポイントの1つです。 diluendoは動詞diluere「溶解する」の動名詞・奪格形で、「溶解する事」という意味です。 【意訳】ふるいにかけて得られる粉は黒いが、水に溶かすと紫色と暗青色を混ぜたような素晴らしい色を呈する。 水に溶けるという事からしまして、ここでプリニウスが述べているindicumは沈殿藍(泥藍)を指しているようです。 ◆alterum genus eius est in purpurariis officinis innatans cortinis, et est purpurae spuma. 【直訳】これの別の種類は、紫染物屋の作業場の大釜の表面であり、紫の泡である。 officina purpurariaは「紺屋」です。布や糸を染料で紫、紺、青に染める工房です。 【意訳】インジゴには別の種類があり、紺屋の作業場に設置されている染色液の大釜の表面に浮かぶ紫色の泡である。 名称が記されていませんが、製造方法からしまして、これが青黛に関する記述であると思います。天然藍染色液の表面に浮いてくる紫の泡をすくい集めて乾かしたものが青黛です。 spumaは「泡」です。今でもイタリア語では発泡ワイン(スパークリングワイン)のことをvino spumante(ヴィノ スプマンテ)と言います。 ◆qui adulterant, vero Indico tingunt stercora columbina aut cretam Selinusiam vel anulariam vitro inficiunt. 【直訳】混ぜ物をする(偽造をする)者は、ハトの糞を純正なインジゴにひたす、または、セリヌシアの白墨あるいは指輪の白墨をホソバタイセイでもって色付けする。 qui「人」が主語。verus, -a, -umを「純正な」と訳しましたが、「本物の」という意味です。「純粋な」と訳してもいいかも知れません。 creta「白墨」は鉱物の「チョーク」「白亜」の事です。 【意訳】混ぜ物をしたり偽造したりして不正に儲けようとする者は、ハトの糞を純正インジゴ染色液にひたしたり、セリヌシア産白墨または指輪白墨をホソバタイセイから作られた藍染料で色付けたりといった手口を使う。 vitrum, -i, n, に関しまして、ラテン語辞典には「ガラス」と「植物のホソバタイセイ」(細葉大青、英語woad、ラテン語学名Isatis tinctoria)という2つの語義が載っています。古代ローマのガラス製品と言えば青色の物が主ですが、ですので藍の原料である植物にvitrumという名前が付けられたのかも知れません。辞書にはホソバタイセイという植物であると載っていますが、この文ではホソバタイセイから作られた藍染料の事を意味していると考えました。おそらくインドから輸入した純正インジゴに対する二級品だったのだと思います。 またちなみに、よく使われる生物学用語にin vitro「ガラス容器の中で」「実験的な生体外環境において」というのがありますが、このvitroはこのラテン語vitrum「ガラス」の単数・奪格形です。 「指輪の白墨」は一体何なのかという事についてですが、この博物誌の別の箇所にそれらしい記述がありまして、どうやら安物の指輪のガラス玉を取り外して砕いて粉にした物の事のようです。 ◆probatur carbone; reddit enim quod sincerum est flammam excellentis purpurae et, dum fumat, odorem maris. 【直訳】炭火でもって試験される; 純正な物はみごとな紫の炎をもたらし、煙を発する時、海の匂いをもたらす。 quod sincerum est「純正な物」が主語です。 【意訳】炭火に投げ入れて純正な物かどうかを鑑別するのだが、純正な物はみごとな紫の炎を発し、煙からは海を連想させる匂いがする。 草はみも実際に青黛粉をガスコンロの火に振りかけてみました。灯かりを全て消してガスの薄青い炎に振りかけてみましたところ、紫ではなくだいだい色の炎を発しました。だいだい色は多分ナトリウムの炎色反応です。電灯を点けて明るくして振りかけてみましたところ、紫色の煙が上がりました。どちらかと言いますと赤色の要素が強い紫色でした。flammam excellentis purpurae reddit「みごとな紫の炎を呈する」と記述されているわけですが、flammaには「炎」という語義はあるのですが、「煙」という語義はないようです。 ◆ob id quidam e scopulis id colligi putant. 【直訳】それゆえに、それは岩々から集められたと幾人かは推測する。 ob idは慣用句で、「それゆえに」です。quidam「或る人々」が主語です。あとにある動詞の活用が複数形ですので、quidamも複数・主格形です。id「それ」は中性・単数・対格で意味上の主語となり、 colligiは動詞colligereの受動・不定法・現在です。動詞putareが対格と不定詞を伴って、「・・・が+++すると推測する」となります。 【意訳】それゆえ、海の岩場において集められた物であると推測する者もいる。 辞典をひいてみますと、scopulusには、岩は岩でも少し危険を感じるような岩であるというようなニュアンスがあるようです。また、scopulisと複数形である事と、1つ前の文で海の匂いがすると書いていることから、「海の岩場において」と訳しました。 ◆pretium Indico * XX in libras. 【直訳】インジゴにはリーブラごとに20デーナーリウスの価値がある。 この文にはesse「・・・である」の現在・3人称・単数形であるestが省略されていると考えた上で、IndicoはIndicumの単数・与格形で、ラテン語の文法的には所有の与格(dativus possessivus)「・・・に+++がある」であると解釈しました。 【意訳】インジゴの値段は1リーブラ(約326グラム)が20デーナーリウス(約14万円)である。 1libraは約326グラムだそうです。1デーナーリウスはデーナーリウス銀貨1枚の事で、夜明けから夕方までの1日の単純肉体労働の当時の対価がおおよそ1デーナーリウスだったそうです。ざっとですが、現在の日本では7千円程度でしょうか。そのレートで計算しますと、当時は、インジゴ100グラムが4万3千円くらいだったとなります。非常に高価だったようです。 当時の一日の単純肉体労働の対価がおおよそ1デーナーリウスだった事を示す記述が新約聖書にあります。 マタイによる福音書 19章30節 古代ギリシャ語原文 Πολλοὶ δὲ ἔσονται πρῶτοι ἔσχατοι καὶ ἔσχατοι πρῶτοι. Ὁμοία γάρ ἐστιν ἡ βασιλεία τῶν οὐρανῶν ἀνθρώπῳ οἰκοδεσπότῃ ὅστις ἐξῆλθεν ἅμα πρωὶ μισθώσασθαι ἐργάτας εἰς τὸν ἀμπελῶνα αὐτοῦ: συμφωνήσας δὲ μετὰ τῶν ἐργατῶν ἐκ δηναρίου τὴν ἡμέραν ἀπέστειλεν αὐτοὺς εἰς τὸν ἀμπελῶνα αὐτοῦ. (以下略) 【直訳】力がある最初の人達が最後に、最後の人達が最初になるであろう。なぜなら、天の王権支配は、朝になるやいなや彼のぶどう畑へ労働者達を雇うために出かけた家の主である人間と同じであるからである。1日間1デーナーリウスで労働者達との間で同意して、彼は彼らを彼のぶどう畑に派遣した。 【意訳】力がある最初の人達が最後に、最後の人達が最初になるであろう。なぜなら、天の国における主なる神の統御は次のようであるからである。或る家の主人が、彼のぶどう畑で収穫のためにその日働く労働者を雇いに、夜が明けるとすぐに出かけた。そして、賃銀は夕方まで働いてデーナーリウス銀貨1枚という事で同意した労働者達をブドウ畑に向かわせた。 引用しましたギリシャ語原文の1つめの単語polloi(辞書の見出しの形はpolus)についてですが、この単語を現在出版されている聖書のほとんどが「多くの」と訳しています。しかし文脈から言いまして、「力がある」と訳したほうが良いと草はみは思います。大阪にも日雇い労働者の街があるのですが、朝一番に雇い主から指名されて現場へ向かう事ができるのは屈強そうで健康そうな人達で、老いが近い年齢の人や身体的に弱そうな、いわゆる社会的弱者の人達はなかなか指をさしてもらえず、仕事にあぶれる事が多いそうです。「(イエスの)父である主なる神が統治する天の国は福祉の考え方が非常に厚い所ですよ」という事をどうやらイエスはたとえ話を用いてここで説明しているようです。詳しくは図書館等で聖書を手に取って一度このエピソードを最後まで読んでみてください。現在、先進国では、国によって規模の違いはありますが、年金制度というものが実施されていますので、イエスの生きた当時から比べると少しはイエスの理想に近付いたのかも知れません。 話がそれましたが、マタイによる福音書は紀元(AD)1世紀に書かれたとされていますから、プリニウス『博物誌』が書かれた紀元前(BC)1世紀とはそんなに遠くはありません。ですので、1デーナーリウス銀貨の価値が7千円プラスマイナス二千円あたりであったという推測が可能だと考えました。 hemeran「一日間」はhemera「日(day)」の単数・対格形で、古代ギリシャ語文法的にこれは時間的・空間的広がりの対格(accusativus spatii)です。 ◆in medicina Indicum rigores et impetus sedat siccatque ulcera. 【訳】医療において、インジゴは悪寒と炎症を鎮め、潰瘍を治す。 rigorとimpetusはそれぞれ複数の症状名を指す単語のようでして、ここではどの症状名を指しているのかという事についてかなり悩んだのですが、とりあえずrigor「悪寒」、impetus「(結節をともなう)炎症」という訳にしました。impetusは何か説明の単語をともなって「・・・の発作」という使われ方が多いようですが、単独で症状名として使われる場合は「炎症」「結節や腫瘤をともなう炎症」をどうやら示していたようです。動詞siccareにはどちらかと言いますと「乾かして治す」というニュアンスがあるようでして、ですのでulcera「潰瘍」はここでは皮膚にできた潰瘍について述べている可能性のほうが大きいかも知れません。 C. Ivlli Caesaris - Commentarii de Bello Gallico - 5. 14 Ex his omnibus longe sunt humanissimi qui Cantium incolunt, quae regio est maritima omnis, neque multum a Gallica differunt consuetudine. Interiores plerique frumenta non serunt, sed lacte et carne vivunt pellibusque sunt vestiti. Omnes vero se Britanni vitro inficiunt, quod caeruleum efficit colorem, atque hoc horridiores sunt in pugna aspectu; capilloque sunt promisso atque omni parte corporis rasa praeter caput et labrum superius. Vxores habent deni duodenique inter se communes et maxime fratres cum fratribus parentesque cum liberis; sed qui sunt ex his nati, eorum habentur liberi, quo primum virgo quaeque deducta est. ◆C. Ivlli Caesaris - Commentarii de Bello Gallico - 5. 14 【直訳】『ガーイウス・ユーリウス・カエサルの ガリア戦争についての記録書』 5巻14章 【意訳】カエサル 『ガリア戦記』 5巻14章 ◆Ex his omnibus longe sunt humanissimi qui Cantium incolunt, quae regio est maritima omnis, neque multum a Gallica differunt consuetudine. 【直訳】カンティウムに住んでいる人々はこれら全ての中で格段に文明化されており、その地方は全て海岸性で、習慣においてガリアとそんなに違わない。 コンマまでの最初の文においてはqui Cantium incolunt「カンティウムに住んでいる人々」が主語です。quaeは指示代名詞的に用いられた関係代名詞で、quae regioは「この地方は」と訳せばいいと思います。consuetudineはconsuetudo「習慣」の奪格形で、文法的にここでは観点の奪格(ablativus respectus)と解釈しました。 【意訳】これら全てのブリトン人達の中で格段に文明化されているのはカンティウムの住民達である。カンティウム地方は全て海に面しており、彼らの風俗はガリアとあまり違わない。 Cantiumは現在のUKのKentだそうです。 ◆Interiores plerique frumenta non serunt, sed lacte et carne vivunt pellibusque sunt vestiti. 【直訳】そして内陸部の住民達の多くは穀物を蒔かず、乳と肉でもって生き、なめし皮(毛皮)でもって被服している。 pellis, -is, fには「なめし皮」と「毛皮」という両方の語義があるようなのですが、この文においてはどちらの意味なのかは不明です。複数形で使われている事から、なめし皮と毛皮を組み合わせてつくった服を着ていた可能性があると思います。 【意訳】そして彼らは内陸部の大部分では穀物を作らず、酪農と畜産を行ない、なめし皮や毛皮を着ている。 ◆Omnes vero se Britanni vitro inficiunt, quod caeruleum efficit colorem, atque hoc horridiores sunt in pugna aspectu; 【直訳】全てのブリトン人は自身を純粋なホソバタイセイで塗っており、それは暗青色をなし、そしてそのために戦闘において見るに彼らはいっそう恐ろしい。 veroを副詞と解釈して「実に」と訳している翻訳もあるようですが、プリニウスの記述に偽物、または二級品の存在が指摘されていますので、形容詞verus「純粋の、純正の、本物の、混ぜものなしの」の単数・奪格形と解釈しました。 hocはhic「これ」の中性・単数・奪格形で、「これ(=vitrum)でもって」という意味にも解釈可能ですが、形容詞の比較級horridioresが次にきていますので、比較級を修飾する副詞hoc「いっそう」とも解釈できます。ひょっとすると両方とも正解かも知れません。 aspectuは動詞aspicere「見る」の第2スピヌムで、意味は「見るに」です。 【意訳】ブリトン人達は誰しも体をホソバタイセイで暗青色に塗っており、そのために戦闘においていっそう恐ろしく見える。 vitrumはホソバタイセイ(細葉大青、ラテン語学名isatis tinctoria、英語名woad)であると考えられているようです。青黛の原料となりうる植物の1つです。しかし、ホソバタイセイという植物そのものよりは、ホソバタイセイから作られた藍染料の事を指しているようにも文脈から考えられます。 カエサル率いるローマ軍は以前にもブリトン人達と戦った事があり、ローマ兵達の中にはブリトン人達の勇敢さに恐怖心を抱いていた者達もいたようです。ブリトン人達の勇敢さはヨーロッパでは伝説となっているようでして、現在でも、woad warriors(ウォード・ウォーリアーズ)のコスプレをする集団があったり、彼らを題材にした映画が作成されたりしているようです。 日本の歌舞伎の世界では、隈取(くまどり)と呼ばれる伝統的な化粧に青黛が用いられていますが、青黛は基本的に敵役(かたきやく)や怨霊役が使うそうです。青黛の色は皮膚から透けて見える静脈の色に似ていますので、それで怖く見えるのかも知れません。 青黛には出血を止める効果がありますから、その効果を期待してブリトン人達は戦闘においてvitrumを全身に塗ったという可能性もあると思います。 ◆capilloque sunt promisso atque omni parte corporis rasa praeter caput et labrum superius. 【訳】彼らは髪を長く伸ばして垂れ下げ、頭と上唇を除いて体の全ての部分の毛を剃っている。 capillo promissoとomni parte rasaは特徴描写の奪格(性質の奪格)(ablativus qualitatis)だと解釈しました。 体毛を剃っていたのは、vitrumでもって模様を描きやすくするためだったのではないかと思います。一様なベタ塗りではなかったのではないかと思います。 C. Plinii Secundi - Naturalis Historiae - 22. 2 equidem et formae gratia ritusque perpetui in corporibus suis aliquas exterarum gentium uti herbis quibusdam adverto animo. inlinunt certe aliis aliae faciem in populis barbarorum feminae; maresque etiam apud dacos et sarmatas corpora sua inscribunt. simili plantagini - glastum in gallia vocatur - britannorum coniuges nurusque toto corpore oblitae quibusdam in sacris nudae incedunt, aethiopum colorem imitantes. ◆C. Plinii Secundi - Naturalis Historiae - 22. 2 【訳】プリニウス 『博物誌』 22巻20章 ◆equidem et formae gratia ritusque perpetui in corporibus suis aliquas exterarum gentium uti herbis quibusdam adverto animo. 【直訳】確かに、美しい姿のために、そして不断の儀式のために、外国の種族の幾つかは、何か草を彼らの体に使うという事に私は注意を向ける。 animoは写本によってはanimumとなっており、草はみもanimumとして解釈しました。構文的に、 advertere animum 《対格》 《動詞の不定詞》 で、「《対格》が《動詞の不定詞》するのに注意を向ける」となります。 また、gratia 《属格》 で「《属格》のために」という意味になります。 【意訳】姿を美しく見せるために、また古くから続く儀式の風習を守るために、外国の幾つかの種族は何か草を体に使うという事を記しておきたい。 ◆inlinunt certe aliis aliae faciem in populis barbarorum feminae; 【訳】確かに、未開人の女性達はおのおの人前に出る時にそれぞれの草でもって顔を塗る。 alius, -a, -um「ほかの」が2つ近付けて文の中に配置されている時は、「それぞれがそれぞれ」というような意味になる事に注意します。allisのうしろにはherbis「草々でもって」が省略されています。aliaeは主語であるfeminae「女性達は」にかかっています。 ◆maresque etiam apud dacos et sarmatas corpora sua inscribunt. 【訳】そしてダキアやサルマチアの男達は体に入れ墨をしている。 inscribereは「入れ墨をしている」とも「描き込んでいる」とも訳せますが、とりあえず「入れ墨をしている」をとりました。 ◆simili plantagini - glastum in gallia vocatur - britannorum coniuges nurusque toto corpore oblitae quibusdam in sacris nudae incedunt, aethiopum colorem imitantes. 【直訳】ブリトン人達の裸の妻達や息子の嫁達は、ガリアではglastumと呼ばれているオオバコに似たもので全身を塗られ、何か宗教儀式において、エチオピアの黒人の色を模倣しながら行進する。 similis「似た」 の単数・女性・奪格形similiのうしろにはherba「草でもって」が省略されていると解釈しました。oblitaeは動詞oblinere「塗りたくる」の完了受動分詞・女性・複数・主格形であり、動詞oblivisci「忘れる」の完了受動分詞ではありません。nudaeは主語であるconiuges nurusque「妻達や息子の嫁達」を修飾する形容詞ですが、意味的には副詞と解釈しました。aethiopusには「エチオピアの」と「黒人の」という意味があります。 【意訳】ブリタンニアでは、妻達や息子の嫁達は、何か宗教儀式において、ガリアでglastumと呼ばれているオオバコに似た草で全身を塗り、肌をエチオピアの黒人のような色にして、裸で行進する。 このglastumもホソバタイセイ(ラテン語学名isatis tinctoria、英語名woad)の事ではないかとされているようです。ホソバタイセイは、葉が地面にへばり付くロゼット形態の時期にはオオバコと姿がよく似ているようです。
by pascor
| 2010-10-31 21:30
| 生薬実験
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Comments(4)
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sakurasasuke
at 2010-11-02 08:15
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はじめまして
いつも興味深く拝見させていただいております。 医薬品として、インジゴカルミンという製剤が市販されております。腎機能検査や胃腸の内視鏡検査の際の診断の補助として使われています。このインディゴは合成されたもののようですが、セイタイの主作用はインディゴに由来していると考えられているのでしょうか?それとも漢方特有の複合的な作用と考えられているのでしょうか?情報をお持ちであればお教え下さい。
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草はみ
at 2010-11-03 22:34
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sakurasasukeさん
いつもこのブログを読んでくださりありがとうございます。 青黛の原料植物は複数ありまして、タデ科、マメ科、アブラナ科、キツネノマゴ科のものなどが知られています。全く違った植物種であるのに、それぞれから作られた青黛に効果がみられるという事は、有効成分はやはりインドキシル骨格を持った化学物質で、それらのうちの幾つかが相乗効果で効果を発揮しているのではないかと草はみは現在推測しています。 それら化学物質の中でも主成分として働いているのはトリプタンスリン(tryptanthrin)かも知れません。 http://www.scbt.com/datasheet-202844-tryptanthrin.html トリプタンスリンは酵素COX2を選択的に強く阻害する能力を持っているようですので、家族性大腸腺腫症への応用も期待できるかも知れません。 (下に続く↓)
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草はみ
at 2010-11-03 22:34
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トリプタンスリンは抗菌、抗ウイルス、抗真菌作用も持っているようです。サイトメガロウイルス腸炎を合併しているような場合でも青黛がどうやら有効なようですし、発症への関与が疑われているフソバクテリウム・バリウムに対しても抗菌効果があるかも知れませんので、広く効く抗生物質としての働きも重要かも知れません。トリプタンスリンの分子構造はキノロン系抗菌剤の基本分子骨格に似ています。
青黛には解毒効果がある事が古くから知られているようです。肝臓のグルクロン酸抱合経路を強化する作用がどうやらあるようです。慢性病は肝臓に力がないとなかなか治らないと思います。 青黛はかなり細かい粒子状ですが、ひょっとすると多孔質構造になっているかも知れません。この事も青黛の効果発現に寄与しているかも知れません。どなたか電子顕微鏡で撮っていただけないでしょうか。 私は医師でも薬剤師でも研究員でもありませんので非常に残念なのですが、青黛の潰瘍性大腸炎への効果をきっちり解明すれば、人類への大きな貢献ですし、大きな賞を獲る事ができるかも知れません。
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sakurasasuke
at 2010-11-04 23:53
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お返事ありがとうございました。
ご教示ただいた情報をもとに、インジゴ生薬の主な成分とされるトリプタンスリン、インディゴ、インディルビンについて検討された論文を見つけました。主に抗炎症作用の機序を検討した論文ですが、MAP キナーゼやカルシウム移動を介した好中球からの炎症性物質の放出を抑制するとしています。この論文ではどの成分というより相乗作用を示唆するものでした。考察の中では、肝障害をきたした報告も引用されておりました。著者らはインディゴ生薬の乾癬に対する外用での有効性も報告しているようです。 大変興味深い情報をありがとうございました。また検索を続けてみたいと思います。
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